【試し読み】年下わんこなパイロットと思いきや、腹黒な雄の愛の罠に絡めとられました【極上のギャップ男子シリーズ】
「……申し訳ありません」
とりあえず頭さえ下げれば解放される。そう思った矢先――。
「見る目がないのはあなたの方ですよ。千晴さんのすばらしさは凡人には理解できないでしょうね」
そう言いながら私の肩を抱き寄せた。
突然のことに体が固まってしまう。ずっと一緒に仕事をしてきたけれど、ここまで彼に近付いたことなんてなかった。
ふわっと、彼の匂いに包まれてドキドキと心臓がうるさい。
いや、今こんなことに気を取られている場合じゃない。とにかくさっさとこの場から撤退したい。
ちらっと風早君の様子をうかがうと、にっこりと眩しいくらいのキラキラの笑みを浮かべていた。
そんなアイドルみたいな顔で、あんな毒舌を披露するなんて。ギャップがすぎる。
彼ってこんな一面もあるんだ……。
いや、また風早君に脳内を支配されそうになった。
違う、違う。こんな大事なときに彼に見とれるなんて!
慌てて自分を取り戻していたら、風早君が福島さんの方へ一歩近づいて耳元でなにかを話していた。
その瞬間、顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。
反対に風早君は満足げに笑っていた。
煽られた福島さんは、私と風早君を交互に指さしながら口をパクパクさせていた。どうやら怒り過ぎて言葉が続かないらしい。
「お前ら、覚えておけよ」
やっと口にした言葉は、アニメで負けたキャラが言いそうな捨て台詞だった。
彼は吐き捨てるように言った後、そのまま席を立って行ってしまった。
カフェテリアを出ていく背中からも怒りを感じる。
ここまで怒らせる必要はなかったのだけれど、こうなってしまった今もう遅い。
隣にいる風早君を見ると、出ていくお見合い相手の男性に向かってひらひらと手を振っていた。
「風早君、ちょっとお話ししようか?」
「はい、いいですよ。でもその前になにか食べませんか? 千晴さんこの苺のケーキ美味しそうですよ」
「いいのよ、苺のケーキなんて今はどうでも」
「え、でも、千晴さん苺好きですよね?」
「うん。どうして知ってるの?」
確かに苺が大好きだが、公言したことはない。なぜ彼が知っているのだろうか。
「すみませーん」
私の質問などまったく気にせずに、手を挙げてスタッフを呼んでいる。
「すみません、苺のケーキふたつとダージリンふたつお願いします」
「かしこまりました……あの」
「ん?」
彼は首を傾げて、スタッフの顔を仰ぎ見た。
ちらちらと風早君の顔を見る年頃の女性スタッフに、あざといと言われても仕方ないような仕草を見せた。その攻撃力の威力をきっと本人はわかっていない。
「あの……他になにかございませんか?」
「はい。大丈夫です。よろしくお願いします」
彼がメニューを閉じて私の方に体を向けると、スタッフの女性は名残惜しそうにその場を離れた。ケーキを運んで来る時にケンカにならなければいいけれど。
そういえば去年の新入社員、風早君が搭乗している時に、誰がコックピットに料理を持っていくか、じゃんけんしていたのを思い出した。
この顔って……本当に罪作りなんだな。