【試し読み】年下わんこなパイロットと思いきや、腹黒な雄の愛の罠に絡めとられました【極上のギャップ男子シリーズ】
「風早君?」
「千晴さん、早くいかないと遅れちゃいますよ」
「あっ!」
気になったものの、仕事に遅れるわけにはいかない。私は後ろ髪引かれる思いでその場を足早に去った。
運よくすぐにタクシーに乗ることができて、仕事に間に合った。
滑り込みセーフだったけれど、本当にあたふたしっぱなしだった。
実家に到着してハンガーにかけていた制服をキャリーに詰め込み、忘れ物がないか確認する。メイクと髪をチェックして問題がなさそうなのでそのまま家を出ようとしたところで、すごい剣幕の母親に捕まってしまった。
どうやら相手から風早君の話を聞いたらしい。『結婚相手がいるなんて、どういうこと?』と詰め寄られた。
ただでさえ出勤時刻ギリギリなのに信じられないほど強い力で腕を掴まれ、根掘り葉掘り聞きだそうとする。
『それについては、また後で話をするから』と、なんとか言い聞かせてやっと解放された。もうその時点で私の気力も体力もほぼ尽きそうだった。
せっかく帰省したのに、疲れるだけだった。
年々、実家に帰るのがおっくうになっていた。顔を見れば「結婚しろ」「孫の顔が見たい」など、ずっとプレッシャーをかけられていた。
私には私の考えがあるといくら伝えても、全然理解してもらえない。両親とゆっくりすごしたいと思っても、四六時中結婚するように迫られたらたまったものじゃない。
それも今回は完全に常軌を逸している。勝手にお見合いを設定するなんて、私の気持ちを無視するにもほどがあるというものだ。
そのうえ風早君のこともある。あの場では助けてくれて本当に助かった。ひとりだともっと落ち込んでいたに違いない。
でも母の様子を見たら、もしかしてより面倒なことになったような気がする。
別に『付き合っている』なんて言わなくてもよかったはず。母が舞い上がってしまいそうで怖い。