【試し読み】年下わんこなパイロットと思いきや、腹黒な雄の愛の罠に絡めとられました【極上のギャップ男子シリーズ】

 はぁ、気が重いなぁ。

 空港に到着して着替えを済ませると、売店で買ったおにぎりを頬張った。

 母とゆっくりランチをするつもりだったのに、立ったままおにぎりを食べることになるなんて。

 ……本当についてない。

 せめてあのケーキだけでも食べたかったな。

 頭の中にケーキと一緒に浮かんできたのは、風早君の顔だった。

「千晴さん」

「ひっ」

 考えていた本人から急に背後から話しかけられて、三ミリくらい飛び跳ねた。

「ひどいなぁ、人を幽霊みたいに言わないでくださいよ」

「びっくりした。後ろから話かけないでよ」

 私は胸に手を当てて、飛び出しそうになった心臓を落ち着ける。

「さっきぶりですね。私服の千晴さんも素敵だったけど、僕はやっぱり制服の千晴さんが好きだな、きりっとしててカッコいい」

「ちょっといきなりなに言い出すの?」

「あ、もちろんワンピース姿もよかったですよ。ギャップがあって」

「風早君ちょっと黙ろうか」

 急に褒められて耐性がない私はどうしていいかわからない。ただただ恥ずかしいだけだ。

「別にいいじゃないですか。僕たちもうすぐ結婚するんだし」

 ひっ……なんてことを!

 慌てて余計なことばかり言う、彼の口を塞いだ。

 周囲に聞かれていないか、きょろきょろと見回す。

 彼とは話をしないといけないと思うけれど、それは周囲に人がいる今じゃない。

「声が大きいわよ。不用意な発言は控えること。いい?」

 私が彼の口元を抑えたまま念を押すと、彼はうんうんと頷いてみせた。

 私が手を外すと「ぷは」と大袈裟に呼吸をした。

「不用意って……さっきはそういう話だったのに」

 わざとそんなふうに言って、私をからかうなんて! 私だって彼が本気じゃないことくらいは理解している。

「あれはとりあえず、あの場から逃げるための口実に使わせてもらっただけ」

「ひどい、責任取らないつもりですか?」

 一応私の言いつけを守って小声で抗議してくる。

 お礼くらいはするつもりだったが、責任を取るなんて少し重すぎる気がする。

「責任ってあなた……」

 私が口を開いた瞬間、村瀬機長がやってきた。

「おつかれさま、責任ってなんの話?」

「なんでもないですよ。それよりもおうどん、美味しかったですか?」

 ここで話を変えなくてはと、登場した村瀬機長に話しかけた。

「あれ、空森さんなんで俺がうどん食べに行ったって知っているの?」

「え、あ、それは……」

 そういえば、お見合いの席で聞いた話だった。不用意な発言をしているのは私の方だ。

「い、今、たった今、風早君に聞いたんです! ね?」

「はい!」

 風早君は元気に返事をしたが、私の方を見て含みのある笑みを浮かべている。先輩の威厳はどこにいってしまったのだろうか。

「うまかったよ。以前空森さんに教えてもらった店が休みで残念だった」

「あぁ、あそこは土日お休みなんですよ」

 期待通り話題が変ってホッとした。
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