【試し読み】年下わんこなパイロットと思いきや、腹黒な雄の愛の罠に絡めとられました【極上のギャップ男子シリーズ】
時間に余裕を持って始まったブリーフィングだったが、あっという間に機内準備の時間になり、定時運行に向けてスタッフは全力で動き始めた。
チーフパサーとなると、仕事が圧倒的に増える。だが今日は慣れたスタッフが多かったので比較的安心して仕事ができた。
予定の時刻に準備が終わってホッとする。
そのときコックピットから風早君が出てきた。早くふたりで話をしておいたほうがいいとは思うけれど、今は仕事中だ。
最終のチェックをしていると、背後に風早君がいた。お互い背中を向け合っていた。
「千晴さん、仕事終わりに時間ください」
「えっ?」
話しかけられるとは思っていなかったので、ドキッとして振り返った。
彼は私の答えを待たずに、ニコッと笑ってコックピットに消えていった。
返事ができずに半ば無理やり約束させられてしまう。
あぁ、今日こそ早く帰りたかった。でも風早君にお礼もきちんと伝えていないし、できればお見合いの話も内緒にしてほしい。
私のプライベートの話を、彼が誰かに話すとは思えないけれど、念には念を入れておくべきだ。
さあ、とりあえず仕事だ。
「こんにちは、本日はご搭乗ありがとうございます」
お客様を出迎える頃には、完全に頭は仕事モードに切り替わっていた。
三便の勤務を終えたころには、深夜になっていた。
疲れた体を引きずりながら、更衣室から出る。いつもならこのまま駅に向かうのだけれど、今日はフライト前に言われた風早君の言葉が気になり帰れないでいた。
別に無視してしまえばそれでもいいのに。
二便目三便目は別のフライトだったので、彼がどこに飛んだのか知らない。
……まさかステイじゃないよね?
さすがにそれはないはずだ。彼は決していい加減な人ではないから。
どうしよう、連絡した方がいい?
連絡をしようとした時、廊下の壁にもたれてスマートフォンを見ている風早君の姿が視界に入った。彼はすぐに私に気が付いて笑みを浮かべた。
「千晴さん、おつかれさまです」
「おつかれさま。ごめんね、待たせた?」
無理やり約束したのは向こうだが、待たせてしまったのは申し訳ない。彼だって疲れているだろう。
こうなったらさっさと話を済ませて帰るに限る。
「そんなに待ってません。さぁ、行きましょうか?」
歩き出した彼の後をついていく。
「行くってどこに行くの?」
「とりあえず車で移動しましょう? 僕はここで話をしてもいいですけど」
振り向きながら言われて、私はぶんぶんと左右に頭を振った。
風早君は爆弾発言しがちだ。綱渡りみたいな会話を知り合いのいる職場でするわけにはいかない。
彼は私の反応を見て頷くと、歩き出した。私はおとなしく彼についていくしかできない。
風早君ってば普段はすごく柔軟で優しそうに見えるのに、実のところは結構強引だと思う。相手が断れない状況にするのがうまいというか……策士だ。
彼の会話のペースに巻き込まれないようにしなくては。私は強い心を持って彼との話し合いに挑んだ。