【試し読み】年下わんこなパイロットと思いきや、腹黒な雄の愛の罠に絡めとられました【極上のギャップ男子シリーズ】
今日のお見合い相手の人はもってのほかだけど、仕事に理解がある人でなければ結婚なんて難しいだろう。
「それで今日の昼間の話なんだけど――」
風早君が話をし始めた途端、バッグの中でスマートフォンが震え始めた。
ちらっと画面を確認すると【母】と表示されている。昼間からずっとメッセージを送ってきている。それらを今のところすべて無視している。さっきまでは仕事だからと言い訳ができたけれど、この時間になると厳しい。
とりあえず今応答するのは難しい。バッグの中で電話を切った。そのまま電源を切りたいところだが、そうすると母がものすごい剣幕でこの後何度も連絡をしてくるのが想像できる。
とりあえず、風早君との話をしてからと思っていたけれど、もう一度バッグの中でスマートフォンが鳴り始めた。
これは電話に出るまで、鳴らし続けるつもりだ。年々母の執念深さに拍車がかかっているような気がする。
とりあえずメッセージを確認して、どのくらいの怒り具合なのかを探ろうとアプリを開いた。そこにはいつもと変わらない文字しか並んでいないはずなのに、ものすごい怒気が伝わってくる。
「どれどれ」
風早君はやじうまのごとく、私の隣に移動して画面を覗き込んだ。
「あぁ、これはすごく怒ってますね」
「他人事なんだから! 風早君が私と結婚するなんて言うからこんなことになったのに」
助け舟を出してくれた人にこんな言い方をして八つ当たりをするなんて、おとなげない。私は慌てて彼に謝罪した。
「ごめんね。助けてくれたのに……感情的になって。あなたを責めるなんてどうかしてた」
今朝からいろいろなことがあって疲れていた。でもそんなのただの言い訳だ。
情けないなぁ。
「僕が無責任にあんな発言したと思っているんですか?」
思いのほか真剣なまなざしを向けられて戸惑った。いつもの彼とは違う一面にドキッとする。
「え……どういうこと?」
風早君のことは信用している。不用意に嘘をついたりする人じゃない。だが今回に限っては、私を助けるつもりでその場限りの嘘をついたのだと思っていた。
その時だった、テーブルの上に置いてあったスマートフォンが再び震え始めた。相手はもちろん母だ。
「千晴さん、僕の本気を見せてあげます」
「え?」
彼が笑みを浮かべた瞬間、テーブルの上のスマートフォンを手にして通話ボタンをタップした。
途端に母の声がスマートフォンから聞こえてきた。スピーカーにしていないのに聞こえてくるなんて、どれほど大声で話しているのだろうか。
「はじめまして、風早天翔と申します」
彼が自己紹介すると、それまで聞こえていた母の声が聞こえなくなった。それはそうだろう、私だと思っていたのにまったく別の人が出たのだから。
「少し移動するので、お待ちいただけますか?」
彼はそう言って私のスマートフォンを持ったまま席を立った。
「ちょっと、待って」
「いいから。千晴さんはここで待っていて」
彼は私が止めるのもまったく気にせずに、そのまま周囲の迷惑にならないようにお店の外に出ていった。
ちょうど私から見えるところで止まり、話をしながら私に手を振っている。
いや、今これどういう状況?
私も私だ。なぜ彼に電話の応対をさせているのか? 今さらここで頭を抱えても遅い。早く帰ってきてと、ジェスチャーで手招きするしかできない。
しかし彼はにこにこしながら、呑気にこちらに手を振っている。
もういったいどういうこと……。
テーブルに頭をつけてどうにか混乱を落ち着けようとしたけれど無駄だった。
こうなったら私から行くしかない。
とりあえず会計を済ませないと外には出られないから、伝票と荷物を持って彼のところに行こうと思っていると彼が戻ってきた。
「千晴さん、おまたせ」
「おまたせじゃないわよ。勝手に母と電話するなんて、いったいなにを話したの?」
私は彼からスマートフォンを取り上げた。
「とりあえず座って落ち着こう」
彼は私にグラスに入った水を渡してきた。自分でも興奮している自覚があったので素直に従う。
座って水を飲み、一度深呼吸をした。とりあえず彼の話を聞かなくては。