【試し読み】年下わんこなパイロットと思いきや、腹黒な雄の愛の罠に絡めとられました【極上のギャップ男子シリーズ】
第一章
第一章 三十三歳。結婚って本当に必要ですか?

 疲れた体を引きずって、なんとかバスルームから生還する。

 あやうく寝落ちするところだった……。

 鏡の前に立って自分の顔を見る。普段は化粧と作られた笑顔で隠されている疲労がにじんだ顔に目をそむけたくなる。

 頼みの綱のシートパックを顔に張りつけて、ドライヤーで髪を乾かす。黒い肩までの髪が温かい風で舞い上がる。

 ここ最近仕事が忙しかった。もう仕事には慣れているけれど、最近は新人の頃より体力がなくなったかもしれない。

 新卒で『星和(せいわ)航空株式会社』にキャビンアテンダントとして採用されてから、十二年目。現在はチーフパーサーを務める立場になった。

 空森千晴(そらもりちはる)三十三歳。

 特別取り柄があるわけではない。けれど私がこの仕事を続けていられたのは、CAという職業に小さい頃からずっと憧れていたからだ。

 CAになるために大学在学中にダブルスクールで学び、就職活動も航空業界に絞った。願いが通じて内定が出た時は、人生で一番うれしかった。

 就職してからは想像と違うこともあったけれど、それでも仕事はなによりも楽しかった。

 だからこそ不規則な勤務や理不尽なクレームがあっても耐えられた。

 かろうじて他の人よりも優れているのは、身長が百六十八センチあるので荷物を頭上のストレージに片付けたり、セキュリティチェックをしたりするのに便利なところだ。

 スキンケアを仕上げ、長年の相棒の着圧ソックスを履いてから、ベッドに倒れ込んだ。

 床には一緒に帰宅したキャリーが放置されている。海外で一泊、慣れていても最低限の荷物は必要だ。そしてそれを片付ける必要もある。でも今日は見て見ぬふりをすることに決めた。

 仕事仲間からは、きちんとした性格に見えるらしいが実際はこんなものだ。外で努力して〝ちゃんとした女性〟に見えるようにしている。

「はぁ~明日は朝、少しゆっくりできるかな」

 出勤時刻から逆算して、スマートフォンにアラームを五分おきに設定していると画面に【母】という文字があらわれた。

 疲れているのにな……と、思いながら電話を取った。
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