【試し読み】年下わんこなパイロットと思いきや、腹黒な雄の愛の罠に絡めとられました【極上のギャップ男子シリーズ】
ロッカーで着替えを済ませ、髪をきっちりとセットすると、仕事スイッチが入る。
同乗するすべての乗務員が集まって行う打ち合わせである、ブリーフィングが行われる一時間前には着替えを済ませるようにしている。その日の掲示物や常務に必要なものを揃えてから参加するようにしている。
比較的余裕を持って出社するようにしているけれど、トラブルがあればあっと言う間に時間がなくなってしまうこともしばしばだ。
到着地の天気予報を確認すると、今日の天候は問題なさそうでホッとする。
そのまま少し早いが、ブリーフィングルームに向かう。新人の頃に搭乗する便が変更になっていることに気が付かずに、別便のブリーフィングに参加しそうになったことがある。今となっては笑い話だけれど、当時すごく怒られたものだ。
ブリーフィングルームの扉は開いていて、中から声が聞こえていた。どうやら数人がもうすでに準備を終えて待機中のようだ。
「風早君、やっぱり君はかわいいね」
中にいるのはCA数人と、副機長の風早天翔(かざはやたかと)だ。
さすが若手のモテ男、その場にいるだけでパッと華やかになる。
風早くんは星和航空始まって以来、最年少機長に最も近い人材だ。入社時にはすでに事業用操縦士の免許を取得しており、誰よりも早く副操縦士としてデビューを果たした。
それだけでも十分注目の人物なのだけれど、それだけではなかった。
百八十センチを超える長身にすらりと長い手足、羨ましいくらい綺麗な二重の瞳にスーッと通った鼻筋、わずかに口角の上がった唇が彼の好感度を上げている。
その上明るく人懐っこい。老若男女誰からも好印象を抱かれる。
こんな逸材を会社が放っておくはずなく、ポスターや動画などで彼を「客寄せ天才パイロット」として扱っている。社内外に多くのファンがおり、空港を歩いていると声をかけられている姿を何度か見たことがある。
その時も好青年のお手本のような対応をしていた。その姿はパイロットというよりもむしろアイドルに近かった。
今日もニコニコと笑って、CAたちを和ませている。彼が一緒のフライトだと、いい雰囲気で仕事ができる。そう言った面も彼が高く評価されるゆえんだろう。
「かわいい? やめてください。僕もいい年なんでカッコいいとか渋いとか、大人の色気とかを全面押し出したいんですから」
「ぷっ、やだやだ。笑わせないで。でもあのポスターの写真、めちゃくちゃカッコいいよ」
「ははは、ありがとうございます」
その時、彼が目の端で私をとらえたのか、こちらを見て満面の笑みを浮かべた。
「千晴さん! おはようございますっ」
なんだか大きなしっぽが見えた気がする。
「おはようございます」
中にいた社員から、挨拶が返ってきた。
今日はチーフパーサーなので、その位置に座る。その隣に風早君が座った。
「千晴さん、今日のフライトも一緒ですね。うれしいなぁ」
私の顔を覗き込んでくる。ほんの少し距離が近い気がするけれど、彼だと不思議に嫌だと思わなかった。
「空森さん、相変わらず風早君になつかれていますね」
他のCAがからかうように言う。
「そんなことないってば、どうせおもしろがっているんでしょ?」
私が彼を軽く睨んでみせると、もっとうれしそうに笑った。
なんで睨んでいるのに、笑顔なんだろう。
「おもしろがってなんかないです。本当にご一緒できてうれしいと思っているんですから、信じてください」
「はい、はい。わかったから」
「いや、全然わかってないですよね?」
適当にあしらおうと思っていたのに、まだ食い下がるなんて。
「懐いてくれるのはうれしいけど、君を狙ってる子たちに誤解されたくないの。軽口もほどほどにね」
「僕、千晴さんにぜひ狙われたいです!」
「いい加減にしなさいっ!」
彼に人差し指を突きつけると、しょんぼりした顔で私を見た。
そのやりとりを見た周囲は声を上げて笑った。
「おはよう、みんな揃っているか、始めよう」
村瀬壮一(むらせそういち)機長がやってきて、部屋の空気が変わった。
全員が席につくとブリーフィングの開始だ。
「本日の機長の村瀬です」
「副操縦士の風早です」
いつもの通り操縦士から、自己紹介が始まる。
いつも同じメンバーだとは限らないので、こうやって順番に名前をいうところからスタートする。
「本日のチーフパーサーの空森です」
私は全員の顔を見まわして挨拶をした。
そこからは今回の運行ルートや気象情報、機材の整備情報などを確認する。
同じルートでも、決して同じフライトはない。だからここでしっかりと情報を共有しておく必要があるのだ。
全体のブリーフィングが終わった後、CAのみでの打ち合わせを行う。
ここではあらためて健康状態や、持ち物のチェック、アルコールの呼気検査などを行う。国際線だとビザやパスポートの確認もする。ここで忘れ物があると、スタンバイの社員を呼び出すことになる。
「みなさん、本日のフライトはお手伝いを必要とされるお客様がいらっしゃいますので、対応をお願いします」
CA間での配置を再度確認すると、もうすでに機内に向かう時間だった。