【試し読み】年下わんこなパイロットと思いきや、腹黒な雄の愛の罠に絡めとられました【極上のギャップ男子シリーズ】
翌日は午後に出勤すればよかったので、午前中はゆっくりできると思っていた。
しかしその日に限って、母から朝早く起きるように言われた。確かにランチ行く約束はしたけれど、こんなに張り切って準備をする必要があるだろうか。
それに加えて渡されたワンピースを着るように言われた。「ここ何年も誕生日プレゼント渡していないから」と言われて特に不思議には思わなかった。
母の運転する車で、海辺にあるホテルに到着する。母は昔からここのフレンチレストランが好きだった。だから今日もここで少し早めのランチをするのだと思っていた。
しかし意外にも連れてこられたのは、一階にあるカフェラウンジだった。ガラス張りで広く開放感があり日の光が差し込んで明るい。土曜日だからか、すでに半分以上の席が埋まっていた。
「ここなの?」
「そうよ。あ、いたわ」
私は母の視線の先を追った。そこに母くらいの年代の女性と、私と同じくらいの年齢の男性が座っていた。
母は「すみません、遅くなりました」と言いながらそのテーブルに向かっていく。途中までついていっていた私は、これが母の言うランチの席ではないことに気が付いて足を止めた。
はめられた……。
まさか母がこんな手を使ってくるなんて思っていなかった。
実の娘をだましてまでお見合いの席に着かせるなんて。どれだけ娘に結婚してほしいんだ……。なかば呆れてその場で小さく笑ってしまった。
「千晴ったらなにしているの。ほら早くこっちに来なさい」
すでに待ち合わせの相手の席に到着していた母は、振り向いて満面の笑みで手招きしている。
この状況になってしまったら逃げることなんてできない。私はとっさに仕事の時と同じ笑顔を作って、ゆっくりと母たちのいるテーブルに近付いていった。
近付くと男性はさっと立ち上がって、頭を下げた。
「はじめまして」
「すみません、お待たせました」
相手の礼儀正しさに申し訳ない気持ちになる。ここに来るまでお見合いだとは知らなかったとは言い出しづらい。
「いいのよ、女の子は支度に時間がかかるでしょう?」
男性が椅子を引いてくれたので、そこに座る。その隣に母が座った。
他人事のように三人の会話を笑顔で聞く。どうやら母親同士が知り合いみたいで今も楽しそうに話をしている。
男性の名前は福島智樹(ふくしまともき)、年齢は三十八歳。地元で飲食店などを多角的に経営しているらしい。
男性は少し居心地が悪そうだが、母親たちの話に相槌を打っている。時々こちらに視線を向けられて落ち着かない。
あぁ、早く終わらないかな。
こんなことならもう少し寝ていたかったな。相手の方には申し訳ないけれど正直な気持ちだ。
もちろんそんな気持ちは一切顔には出さない、私も隣の男性に勝るとも劣らずの作り笑顔でその場をとりつくろった。
「ではそろそろ若いおふたりで、お話ししてちょうだい」
相手のお母様と母が、お互い微笑み合っている。よくあるパターンだが、母が席をはずしてくれるのはありがたい。これでこのお見合いを断りやすくなる。