【試し読み】年下わんこなパイロットと思いきや、腹黒な雄の愛の罠に絡めとられました【極上のギャップ男子シリーズ】
母親たちがいなくなると、テーブルは途端に静かになった。
なんの話をすればいいのか……。いきなり『結婚しません!』なんて言い出すのはさすがに失礼だし。
目の前にある冷めたコーヒーを口に運びながら、相手の出方を待つ。
「母親たちもいなくなったから、ここからは本音で話をしようか」
「それは助かります。私――」
さっさと切り上げてしまいたい。はっきり断ろうと口を開いた瞬間、彼が先に話し始めた。
「仕事はいつ辞められそう?」
「え……どういうことですか?」
「君の退職時期次第でいつ結婚するかを決めよう」
結婚するつもりなの?
驚いて一瞬固まった。その隙に彼が話を続ける。
「こっちで生活するんだから、仕事は辞めないといけないだろう。あぁ、収入は心配しないで。君を養うくらいは稼いでるから」
彼はグラスの水を飲んで、再度話し始めた。
「CAなんて面倒なだけの仕事、結婚の箔付けくらいにしかならない。あぁ、でも周りの男友達には自慢できる。〝俺の嫁元CAなんだ~〟って」
ははは、と声をあげて笑う男性の顔を、私はものすごく冷めた気持ちで見ていた。
こんなことを言われて喜ぶ女性がいると思うのだろうか?
少なくとも私は全然うれしくない。
「これからは俺にだけ食事を運んでくれればいいから」
私はその言葉を聞いて、堪忍袋の緒が切れる音を聞いた。ぶちーんと盛大に。
「あなたに食事なんか……一生運びたくない」
小さな声だったけれど、思わず心の声が漏れてしまった。
「え、どうした?」
どうやら彼に聞こえていなかったらしい、残念。
「私一度も結婚するなんて言っていません、そして仕事も誇りを持ってやっているので、辞めるつもりはありません」
「は? じゃあ、俺と結婚しないってこと?」
「はい、もっと素敵な女性を探してください」
少なくとも私とは考え方が合わないのは確かだ。お互いさっさと無関係になるのが一番だ。
しかし私の拒否に、男性はわかりやすく慌てた。
「いやいやいやいや、ちょっと待って。困るって」
「困る? どうしてですか?」
「だって俺、友達にCAと見合いするって言ったし、断られたとかカッコ悪いじゃんか」
呆れて言葉も出ない。しかし黙っていたら、先に進まないので口を開く。
「私が断られたことにしてください。その方がこちらも都合がいいので」
そうしないと母が「なぜ断ったのか?」としつこく聞いてきそうだ。先方から断わられたのなら文句はあっても、強く責められることはないだろう。
「俺を断るなんて信じられない。その歳でまともな貰い手があると思うのか?」
なんでそこまでひどい言われ方をしなくちゃいけないの?
今日会った人にまで、こんなバカにされるなんて。
これ以上どう言えばいいのだろうか。母に騙されて連れてこられたと正直に話すべきか。
私が結婚したいわけではないとどうやったら伝わるの?
どうにかして断ってこの場を去りたい。そう思うもののなにも思い浮かばない。
悔しさが胸の中に広がった。
そんな時だった、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきたのは。
「千晴さん、僕に隠れて他の男と会うなんて、どういうことですか?」