歌う人魚と秘密の小屋で
大学が終わると、小春はバイト先へと向かった。
ローカルな薄汚れたスーパー。時給も良いとは言えないが、人間関係も良く店長も優しい。大学からも近い。小春はそれなりに気に入っていた。
スーパーの社員用ドアをくぐり、恰幅のいいおじさん店長とパートの主婦を見つける。休みを貰ったことへの詫びと事の経緯を話した。
挨拶もほどほどに、肩まで伸ばした茶髪を後ろで一つに括り、仕事に取り掛かる。
「無理しないでね」
と店長。
今日はレジ担当だが、キツイだろうからと自分のペースでできる品出しの業務を任された。本当に優しい店長だ。
決められた棚に商品を陳列する。綺麗に並べられると気分が良いものだ。
仕事をしていると、コツコツ…と靴音が近づいてくる。お客さんだ。
「いらっしゃいませー。」
と声をかけようとした時だった。
ドサッ
客が買い物かごを落としたようだ。
「落とされましたよ…」
小春はカゴを拾って渡そうと見上げると、目を見開き戸惑いの表情を浮かべた端正な顔の男が立っていた。
腰まで伸ばした長くて黒い髪の毛は手入れが行き届き、ツヤツヤしている。
白いワイシャツをスーツのズボンに入れているから、足が余計に長く見える。すらりと伸びた体躯。身長は180cmほどはあろうか。
モデル…?でもこんなイケメンこの辺で見かけたことないけどなぁ…
見つめ合う2人。
しばしの沈黙。
男はハッと我に返り、
「すみません!すみません、ありがとうございます!」
ペコペコと頭を下げ、小春の手から買い物かごを奪い取り、そそくさとレジに並んでいった。
……?
なんだ今の間は?
はて、どこかで会ったことがある人だろうか。
記憶を隅々まで巡らせても思い出せない。
だいたい、人の顔を見てあんな顔をするのは失礼ではないのか。まるで私が化け物か何かのように。
変なイケメンも居たものだ。
まあいいか。
小春は品出しを続けた。
***
スーパーの自動ドアを出た湊は、ドギマギする心臓を落ち着けるために深呼吸をした。
びっくりした。
「あの子って…。」
湊は開いた口を隠すように右手を口元に当てる。
確か前に海で溺れてた子、だよな。
あの様子だと何も気付いていないようだ。
助かったんだな。良かった…。
しかし困った。助けたのが俺だとは絶対にバレたくない。
あの時は後先考えず躊躇なく飛び込んで助けに行ってしまった。
が、冷静に考えると他に方法があったかもしれない。
…いや。あの海域だ。あの日あの時、偶然見かけて助けにいかなければあの子は助からなかっただろう。
湊はふぅとため息をつく。
そして、慌てて常人離れしたスピードで泳いだことを思い出す。
やらかした。
再び深いため息をつく。
湊は頭を抱えその場に座り込んだ。
まあでも、多少会ってもどのみち気付かれないだろうさ。あの時彼女は意識も朦朧としていたはず。俺のことなんかきっと覚えていないはず。
うん。大丈夫だ。大丈夫大丈夫。
たらりと嫌な汗が流れる。
湊はぐるぐる考えてから、ひどく口が渇いていることに気付いた。
そして買ったペットボトルの水を一気に飲み干し、咽せた。
「げほっごほっ…」
振り返るとあの女の子の姿はもうなかった。
湊は涙目になりながら、その場を後にした。
ローカルな薄汚れたスーパー。時給も良いとは言えないが、人間関係も良く店長も優しい。大学からも近い。小春はそれなりに気に入っていた。
スーパーの社員用ドアをくぐり、恰幅のいいおじさん店長とパートの主婦を見つける。休みを貰ったことへの詫びと事の経緯を話した。
挨拶もほどほどに、肩まで伸ばした茶髪を後ろで一つに括り、仕事に取り掛かる。
「無理しないでね」
と店長。
今日はレジ担当だが、キツイだろうからと自分のペースでできる品出しの業務を任された。本当に優しい店長だ。
決められた棚に商品を陳列する。綺麗に並べられると気分が良いものだ。
仕事をしていると、コツコツ…と靴音が近づいてくる。お客さんだ。
「いらっしゃいませー。」
と声をかけようとした時だった。
ドサッ
客が買い物かごを落としたようだ。
「落とされましたよ…」
小春はカゴを拾って渡そうと見上げると、目を見開き戸惑いの表情を浮かべた端正な顔の男が立っていた。
腰まで伸ばした長くて黒い髪の毛は手入れが行き届き、ツヤツヤしている。
白いワイシャツをスーツのズボンに入れているから、足が余計に長く見える。すらりと伸びた体躯。身長は180cmほどはあろうか。
モデル…?でもこんなイケメンこの辺で見かけたことないけどなぁ…
見つめ合う2人。
しばしの沈黙。
男はハッと我に返り、
「すみません!すみません、ありがとうございます!」
ペコペコと頭を下げ、小春の手から買い物かごを奪い取り、そそくさとレジに並んでいった。
……?
なんだ今の間は?
はて、どこかで会ったことがある人だろうか。
記憶を隅々まで巡らせても思い出せない。
だいたい、人の顔を見てあんな顔をするのは失礼ではないのか。まるで私が化け物か何かのように。
変なイケメンも居たものだ。
まあいいか。
小春は品出しを続けた。
***
スーパーの自動ドアを出た湊は、ドギマギする心臓を落ち着けるために深呼吸をした。
びっくりした。
「あの子って…。」
湊は開いた口を隠すように右手を口元に当てる。
確か前に海で溺れてた子、だよな。
あの様子だと何も気付いていないようだ。
助かったんだな。良かった…。
しかし困った。助けたのが俺だとは絶対にバレたくない。
あの時は後先考えず躊躇なく飛び込んで助けに行ってしまった。
が、冷静に考えると他に方法があったかもしれない。
…いや。あの海域だ。あの日あの時、偶然見かけて助けにいかなければあの子は助からなかっただろう。
湊はふぅとため息をつく。
そして、慌てて常人離れしたスピードで泳いだことを思い出す。
やらかした。
再び深いため息をつく。
湊は頭を抱えその場に座り込んだ。
まあでも、多少会ってもどのみち気付かれないだろうさ。あの時彼女は意識も朦朧としていたはず。俺のことなんかきっと覚えていないはず。
うん。大丈夫だ。大丈夫大丈夫。
たらりと嫌な汗が流れる。
湊はぐるぐる考えてから、ひどく口が渇いていることに気付いた。
そして買ったペットボトルの水を一気に飲み干し、咽せた。
「げほっごほっ…」
振り返るとあの女の子の姿はもうなかった。
湊は涙目になりながら、その場を後にした。