歌う人魚と秘密の小屋で
湊は仕事を終え、海辺へ向かった。
あそこは昔、病弱だった父親が購入した土地だ。
海が見えるのが良い、と小さな小屋を建て、そこにピアノを置いた。けれど小屋を建ててすぐ、父親は病気で亡くなってしまった。
湊は小屋に着くと鍵を開け、窓を開けた。
潮風が心地よい。
ピアノの前に座り、時折海を眺めながら夢中になってピアノを弾く。
自分だけの空間。
ここに来るのも何年ぶりだろうか。
なんと贅沢な時間だろう。
こんなにも、ピアノは楽しい。
そんな感覚も忘れていた。
鍵盤に触れる。音が鳴る。
指が滑らかに動いていく。
そのうち、弾いているのは自分ではなく手そのものなのではないかと思えてくる。
手の、指の動くままに、鍵盤を叩く。
流れに身を任せて、ピアノとの一体感を、音楽を楽しむ。
湊はお気に入りの曲を弾き、そして歌った。
「Scarborough Fair」
海に向かって。
海を見ながら。
この叶わぬ恋を歌った物悲しく美しい旋律が好きだった。
すると、海で人が泳いでいるのが見えた。
あんな所で泳いで大丈夫なのだろうか。
俺はまだしも人は…
見ていると、人影がバシャバシャと音を立ててそして…消えた。しばらく経っても浮かび上がってこない。
もしかして、溺れ…?
焦った湊は演奏をやめ、服も脱がずに海へと走り、飛び込んだ。
一目散に泳いでいく。泳ぎは人より自信がある。
…居た。
海に沈もうとする女の子を引き上げた。
ぐったりしている。息は…分からない。
急いで岸に上がらなければ…
湊はまた、ものすごい速さで岸に向かって泳いだ。
砂浜に着くと、必死に声をかけた。
「しっかりしろ!おい!大丈夫か!?」
女の子はうっすら目を開けてこちらを見た。
息はある…意識も…朦朧とはしているが、大丈夫か…
遠くから人の声がする。
この子の知り合いだろうか。
人が来る。もうたぶん大丈夫だろう。
さて、俺が見つかったら厄介だ。
湊は夜の海へと引き返した。
そして遠くから女の子が救助される様子を確認し、ほっとして泳いで小屋に戻っていった。
海辺に戻ると、湊は服から滴る水を絞った。
長い髪の毛が体に張り付きやりづらい。
今日はもうピアノは弾けないな。
この辺は危ないから人があまり近寄らない。だから前にも遊びに来ていたが、やはり潮の流れが急だった。俺たちにはそれが良かったのだが、やはり人には酷だったろう。
なんでこんなところまであの子は…。
疑問に思いながら、先程女の子が溺れていた場所を見つめる。
考えても仕方がない。今日はもう帰ろう。
確か着替えとバスタオルが車にあったか…
小屋の戸締りを済ませると、自分の車へと向かった。
あそこは昔、病弱だった父親が購入した土地だ。
海が見えるのが良い、と小さな小屋を建て、そこにピアノを置いた。けれど小屋を建ててすぐ、父親は病気で亡くなってしまった。
湊は小屋に着くと鍵を開け、窓を開けた。
潮風が心地よい。
ピアノの前に座り、時折海を眺めながら夢中になってピアノを弾く。
自分だけの空間。
ここに来るのも何年ぶりだろうか。
なんと贅沢な時間だろう。
こんなにも、ピアノは楽しい。
そんな感覚も忘れていた。
鍵盤に触れる。音が鳴る。
指が滑らかに動いていく。
そのうち、弾いているのは自分ではなく手そのものなのではないかと思えてくる。
手の、指の動くままに、鍵盤を叩く。
流れに身を任せて、ピアノとの一体感を、音楽を楽しむ。
湊はお気に入りの曲を弾き、そして歌った。
「Scarborough Fair」
海に向かって。
海を見ながら。
この叶わぬ恋を歌った物悲しく美しい旋律が好きだった。
すると、海で人が泳いでいるのが見えた。
あんな所で泳いで大丈夫なのだろうか。
俺はまだしも人は…
見ていると、人影がバシャバシャと音を立ててそして…消えた。しばらく経っても浮かび上がってこない。
もしかして、溺れ…?
焦った湊は演奏をやめ、服も脱がずに海へと走り、飛び込んだ。
一目散に泳いでいく。泳ぎは人より自信がある。
…居た。
海に沈もうとする女の子を引き上げた。
ぐったりしている。息は…分からない。
急いで岸に上がらなければ…
湊はまた、ものすごい速さで岸に向かって泳いだ。
砂浜に着くと、必死に声をかけた。
「しっかりしろ!おい!大丈夫か!?」
女の子はうっすら目を開けてこちらを見た。
息はある…意識も…朦朧とはしているが、大丈夫か…
遠くから人の声がする。
この子の知り合いだろうか。
人が来る。もうたぶん大丈夫だろう。
さて、俺が見つかったら厄介だ。
湊は夜の海へと引き返した。
そして遠くから女の子が救助される様子を確認し、ほっとして泳いで小屋に戻っていった。
海辺に戻ると、湊は服から滴る水を絞った。
長い髪の毛が体に張り付きやりづらい。
今日はもうピアノは弾けないな。
この辺は危ないから人があまり近寄らない。だから前にも遊びに来ていたが、やはり潮の流れが急だった。俺たちにはそれが良かったのだが、やはり人には酷だったろう。
なんでこんなところまであの子は…。
疑問に思いながら、先程女の子が溺れていた場所を見つめる。
考えても仕方がない。今日はもう帰ろう。
確か着替えとバスタオルが車にあったか…
小屋の戸締りを済ませると、自分の車へと向かった。