歌う人魚と秘密の小屋で
大学から帰宅した小春はソファで寛いでいた。

最近のマイブームときたら、自作のカフェラテとコンビニスイーツを食べる事である。夕飯前だが、まだ母親は帰ってこない。
つまり私を止めるものは誰もいない。
今日のおやつはティラミスだ。
小春はカップを外してスプーンで掬い取って一口食べる。
ほろ苦くて甘い、冷たいそれは、温かいカフェラテと良く合う。
完璧なハーモニーだ。

ピンポーン…

玄関のベルが鳴る。
小春はティラミスを置き、玄関へと向かう。
ガチャリと扉を開ける。

すると目の前にはスーパーで会ったいつぞやの変なイケメンが立っていた。

 彼は私の顔 をみるなり少しびっくりした様子を見せた。妹の臨時の担任らしい。汐見と名乗っていた。今日は休んだ妹のためにプリントを届けにきてくれたようだ。見ると、文化祭のお知らせと書いてある。

若そうなのにしっかりしているなぁ。

この家は遠かったろうに、わざわざ持って来てくれたのか。良い先生なのかもしれない。

汐見先生はプリントを手渡し、用件を伝え終えると帰って行った。

しかし、先生の応対が少々ぎこちない気がする。元々そういう人なのだろうか?

まあ、臨時の担任で慣れないことも多かろう。若いし。頑張れ、変なイケメン先生。

うんうん、と勝手に若手教師の苦労を想像して腕組みし頷く小春。

そしてソファに座り、テーブルに今しがた貰ったプリントを置く。

ティラミスを手に取り堪能していると、スマホの通知が鳴った。
この間、救急車を呼んだりと溺れた私を介抱してくれた芦部雅也だ。

何やら長文だが…要約するとこうだ。

『最近海辺の小屋が心霊スポット化してるらしい。音楽とか歌が聞こえるようになって。もしかしたら人魚伝説に関わりがあるかも。次の満月の夜に何人かで人魚探しに行こうぜ。』

子供じみた内容だなぁと以前の小春なら思ったかもしれない。

あの溺れた夜に聞こえてきた歌と音楽。
そのほかにも気になることはいくつかある。

今度こそ声の主を突き止められるかもしれない。

わくわくと期待と、ちょっぴり不安を胸に返事をした。

『行く。』



2階の階段を降りる音が聞こえてくる。
妹の日向だ。こちらを見て聞いてきた。

「お姉ちゃん、誰か来たの?」

「日向の先生が来てたよ。汐見先生。プリント渡しに来たんだって」

「えぇ〜!?わざわざ申し訳ない〜!てかお姉ちゃん先生に会ったんだ。どうだった?」

目をキラキラさせて聞いてくる日向。

「どうって…別に普通?でも、イケメンだよね。ちょっと変わってるけどね。あんたの体調心配してたよ。」

「そうなの。先生やっさしー♪ 私はこの通り元気にしてるけどね。汐見先生、イケメンだけどなんか不思議なんだよね。夏でも長袖だし。」

ふうん、と興味なさげにスルーする小春。

目下の課題は満月の人魚探しだ。
カレンダーを見る。
次の満月は1週間後。

果たして謎の答えに近づくことは出来るのだろうか。

小春は冷めたカフェラテを啜った。
< 7 / 11 >

この作品をシェア

pagetop