帝都の夜にあなたを拐う〜怪盗と華族令嬢の恋〜
「それでは、お教えしましょう。僕の今宵の狙いは⋯、この邸宅で、最も価値のある美しい宝石、あなたです」
彼は、私の手の甲に、口づけを落とした。
柔らかな唇の質感に、心臓がドクンっと跳ねる。
ほんの少しだけ触れた、仮面の冷たさとは反比例する、熱い口づけが、私の青白い手の甲に薔薇のように赤く刻まれた。
不思議と痛みは伴っていない、と言うより、快楽に近かった。
「僕は、毎日、誰よりも頑張っているあなたの姿をそっと見つめ、遠くから見守っていました。涙も葛藤も、すべてがあなたの魅力です。今日までよく頑張りましたね」
彼のその言葉を聞いて、涙がぽろぽろと溢れた。糸が切れてしまった真珠の首飾りのように⋯。
きっと誰もが、私のことを裕福で幸せな人だと思い、何不自由のない幻想を見ることでしょう。
でも、私は、人には言えない煩悶(はんもん)に沈み、懊悩(おうのう)を抱いているのです。まるで悶え苦しむ飛べない鳥⋯。それでも頑張って日々を懸命に生きているのです。
彼は、そんな私の誰にも見せたことのない本当の姿を透視しているかのようで。
「その張り詰めた心を、僕とのロマンスで満たしてあげたいのです」
私は、彼の低音で甘美な声に一瞬にして落ちてしまった。くらくらと目眩を誘うくらいに。