帝都の夜にあなたを拐う〜怪盗と華族令嬢の恋〜
彼は私に優しく触れると、藍色の着物の裾が、はらりと乱れないように、丁寧に抱き上げた。紳士的すぎて、戸惑ってしまう。あなたは怪盗なのに⋯。
「あのっ、私⋯、重くないですか?」
「重いですよ。あなたの命は。だから、あまり無理をしてはいけませんよ。と言っても、あなたは無理をしてしまうのでしょうね」
彼の胸から、今まで感じたことのない香水の匂いがした。甘くて、だけど紳士的で。
怪盗には相応しくないような香りが私の鼻腔をくすぐる。
いや、これは、彼が醸し出している匂い。先程まで読んでいた小説に出てくるような、妖しくも甘美な世界が万華鏡のように浮かぶ。
「今宵はもう、何も頑張らなくていい。この満月の夜に、僕と秘密のランデブーへ出掛けましょう」
「耳元で囁くなんて、反則ですわ」
私はそう言いながらも、自分の体から緊張が解(ほど)けていくのがわかった。これが、癒やしというものなのでしょうか。初めて感じる感覚でした。
彼は残酷なほど満足そうに微笑むと、私を腕に抱いたまま、ガス燈の光がにじむ夜の帝都へと飛び出した。
二人の影は重なったまま、満月の光の中へ。