無自覚に胸キュンさせてくる御曹司が対処しにくい。
「この店、美味しいから安心して」

冬我さんにそう言われ、出てきたノンアルコールカクテルは本当に美味しかった。

そして、隣では冬我さんがこの辺で美味しいお店を楽しそうに話している。

イタリアンにフレンチ、それに先ほどの大衆居酒屋や近くの焼き鳥屋。さらには和菓子屋まで。

「沢山お店を知っているんですね」

「仕事柄会食が多いのもあるよ。美味しいお店を知っていて損はないから」

そう言いながら、冬我さんは店主に出されたチーズの盛り合わせをおつまみにして幸せそうな顔をしている。

「冬我さんって食べるのがお好きなんですね」

驚いた顔でこちらを振り返られて、何かまずいことを言ってしまったのか心配になってしまう。

「すみません、何か気に触ることを言ってしまったなら……」

「いや、あまり想定していない言葉だったから」

「私も仕事で飲み会とかあるので損はないの意味は分かるのですが、なんていうか美味しいお店を知っていたら普通に会食とか関係なくてもお得だなぁと思って。私も嫌な飲み会の時は食事が美味しいと救われます」

「嫌な時は味がしないとかじゃなくて?」

「入社した時は味わえないまま終わったこともよくありましたけど、一度同じ店に休日行ったらめちゃくちゃ美味しくて。しかも割と良いお値段の所だったから、あの日ちゃんと味わえなかったことを後悔したんですよね」

「なるほどね」

こんな続きを聞きたいかも分からない話を冬我さんは真剣に聞いていた。
< 26 / 66 >

この作品をシェア

pagetop