無自覚に胸キュンさせてくる御曹司が対処しにくい。
その時、突然後ろから冬我さんに声をかけられた。


「藤香ちゃん藤香ちゃん。よく見て、今の煌也」


驚いて振り向いた私に冬我さんは目もくれず、ただ煌也くんを指さしている。

「ほら、見て。今の煌也、めっちゃ緊張してる。よく見ると会話の相槌のタイミングがおかしいし、俺の社交術を真似て気軽に話しかけようとして噛んでる」

冬我さんに言われてよく見ると、確かにその通りだった。

「いやー、煌也ダサいな」

「!?!?」

今まで煌也くんに好意的だった冬我さんが、そんなことを言ったので驚いてしまう。

でも、冬我さんの言動の意味は、次の言葉ですぐに分かった。

「でも、あのダサい煌也がいいんでしょ? 藤香ちゃんは」

冬我さんが私に一枚のカードキーを渡す。

「これ、屋上テラスに入れるカードキー。今から30分これを貸してあげる。ついでに煌也も」

「……冬我さんってめちゃくちゃ優しいですよね、普通に」

「でしょー、俺って超いい奴」

「はい、超良い人です。煌也くんが憧れるのも分かります」

「藤香ちゃんは素直に褒めるねー。俺が口説いても乗ってくれないのに」

「今までの軽口は嘘じゃないんですか?」

「そうだって言ったらどうするの?」

「ちゃんと返事をします」

「うわ、はっきり振るんだ」

「ちがっ! そうじゃなくて!」

私が慌てているのを見て、冬我さんが「あははっ、分かってるよ。誠実に返事するって意味でしょ?」と笑う。
< 60 / 66 >

この作品をシェア

pagetop