保健室の目覚まし係になったら、学校一の沼男に捕まりました
「みんなが外で暑い中、体育祭を頑張っているのに。こうして保健室で、男女が二人でイチャイチャしてる。これって、悪いことでしょ?」
耳に吹きかけられた息がくすぐったくて、ぴくりと肩が揺れる。
「確かに。言われてみれば、そうかもしれないですね」
私は、クスクスと笑う。
窓の外からは、まだ体育祭の賑やかな声が聞こえている。
きっと今頃、他の生徒たちは競技に夢中になっているのだろう。
そんな喧騒から切り離された、この二人だけの静かな時間が、なんだかとても特別なもののように感じられた。
「俺としては、誰にも邪魔されずに咲奈を独り占めできて。こんなに嬉しいことはないけどね」
海里先輩が、心からの笑顔を見せてくれる。
やがて唇が離れると、先輩は名残惜しそうに、それでも満足げに微笑んだ。
まだ夢みたいだ。
さっきまで、こんなことになるなんて、想像もしていなかったのに。
膝の上で先輩に包まれたまま、私はしばらく、この現実をゆっくりと噛みしめていた。
「先輩。今日は、色々ありがとうございました」
「ん? 何が?」
「怪我のこと、心配してくれたこと。それに、私の話をちゃんと聞いてくれたこと、全部」
「そんなの、当たり前だろ。咲奈は、俺の大事な人なんだから」
窓から差し込む秋の陽射しが、保健室のベッドをやわらかく照らしていた。
しばらく、そのぬくもりに浸っていた。
でも、幸せな時間の中にも、ふと冷静になる瞬間はやってくる。
現実的な不安が、頭をよぎった。
「あの、海里先輩。私たちのこと……田村先輩たちに、何て説明したらいいんでしょうか」