保健室の目覚まし係になったら、学校一の沼男に捕まりました
放課後。先輩の家に向かう道すがら、私たちは並んで歩いていた。
変装のために黒縁メガネをかけ、マスクで口元を覆った海里先輩が、ふと私を振り返る。
「……早く咲奈と手、繋ぎたいな」
「え?」
「この辺は、まだ学校の奴らも多いからさ。もう少し先の住宅街に入るまで我慢ね」
そう言って悪戯っぽく笑う先輩に、「はい」と頷きながらも、頬がじんと熱くなる。
さすが人気モデル、変装も警戒も抜かりがない。けれど、そんなふうに『我慢している』と言ってくれることが、たまらなく嬉しかった。
大通りを抜け、人通りがぐっと少なくなった住宅街に入ると、先輩がようやく私の手をそっと握った。
「あの、海里先輩」
「ん?」
「今更なんですけど、こうして手を繋いで歩くの、まだちょっと慣れないです」
「そう? 俺はもう慣れたけど」
「早すぎません?」
「咲奈の手、ずっと繋ぎたいと思ってたからね」
さらっと言われた一言に、頬が熱くなる。
こういうところ、先輩はやっぱりずるい。
夕暮れの住宅街を、二人で並んで歩く。
以前は、こんなふうに堂々と一緒に帰ることもできなかったのに。
人目の少ない道を選びながらでも、こうして手を繋いで歩けるようになったことが、なんだか不思議な気がした。
「海里先輩」
「なに?」
「私、先輩のことを好きになって良かったです」
自分でも驚くくらい、素直な言葉がこぼれた。
「……咲奈。それ、今言う?」
照れたように、先輩が視線を逸らす。
「あ、なんか照れてます?」
「照れてないし」
「照れてますよ、絶対」
そんな他愛もないやり取りをしながら、私たちは笑い合った。