保健室の目覚まし係になったら、学校一の沼男に捕まりました
いつもの、あの人を食ったような笑い方とは違う。
作り込まれた、完璧な"王子様"の顔。
分かってる。あれは、お仕事用の顔だって。
昨日、私のクラスにこっそり様子を見に来てくれたときの、あの砕けた笑顔とは、まるで別人だ。
分かっているはずなのに、なんだか胸の奥がちりちりする。
私だけが知っているはずの先輩の顔が、今この瞬間だけは、教室中の女の子たちのものになっているみたいで。
──って、何を張り合ってるんだろう、私。
そう自分に呆れながらも、視線はどうしても先輩の姿を追ってしまう。
ふと、先輩がこちらに顔を向けた。
「……っ」
見つかった。
気まずさに一歩後ずさろうとした、そのとき。
海里先輩が、誰にも気づかれないくらいの小さな仕草で、こちらに向かって片目をつぶってみせた。
一瞬すぎて、周りの女の子たちは誰も気づいていない。
でも、私にだけは、はっきり分かった。
──今の、絶対に私に向けてだ。
心臓が、とくんと跳ねる。
みんなの前では完璧な王子様を演じながら、ほんの一瞬だけ、素の自分をこっそり見せてくる。
そうやって翻弄してくるところが、本当にずるい。
私はそれ以上見ていられなくなって、逃げるように自分の教室へと戻った。