保健室の目覚まし係になったら、学校一の沼男に捕まりました
「……っ」
目覚まし係になって間もない頃、保健室で牛乳をこぼしたときのことを、ふいに思い出す。
あのときは、避けた私に、先輩の指先が宙で止まった。
でも今は、避ける理由なんてどこにもない。
「髪、頬についていたから」
そう言いながらも、先輩の指はすぐには離れず、頬から耳のあたりまで、名残惜しそうに滑っていく。
「な、なんですか、今の」
「別に? 髪、直してあげただけだけど」
しれっと言う先輩の耳が、まだ赤く染まったままで。
「……やっぱり、先輩照れてますね」
「うるさいな」
そっぽを向く先輩の横顔に、私はまた笑ってしまう。
星のキーホルダーを、私はそっと制服のポケットにしまった。
いつかこれを鞄につけて、堂々と二人で歩ける日が来るまで。
今はまだ、この小さな秘密と、繋いだ手の温もりを、大切に抱えていようと思った。
夜道に、二人分の笑い声が、いつまでも小さく響いていた。
◇
私の家の前まで来ると、先輩が名残惜しそうに足を止めた。
「じゃあ、今日はここまでかな」
「はい。今日は、色々ありがとうございました」
お礼を言って離れようとした瞬間、先輩の腕が、ふいに私を後ろから、そっと抱き寄せた。
「……っ、先輩?」