保健室の目覚まし係になったら、学校一の沼男に捕まりました
「今日一日、可愛かったから。名残惜しくて」
耳元で囁かれた声に、心臓が跳ねる。
「うちの前ですよ、ここ」
「知ってる。だから、少しだけ」
腕の中に閉じ込められたまま、私はしばしの間、抗うこともせずにじっとしていた。
行き交う人の姿もない、静かな夜道。
先輩の体温と、少し速い鼓動が、背中越しに伝わってくる。
しばらくそうしていたあと、名残惜しそうに腕をほどいた先輩が、私の正面に向き直る。
そうして少し屈み込むと、私の額にそっと唇を落とした。
「……っ」
一瞬のことだったのに、触れた場所がじんわりと熱を持つ。
「おやすみ、咲奈。また明日」
いつもよりずっと優しい声で、先輩がそう言った。
「……おやすみなさい、海里先輩」
火照った頬を両手で押さえながら、私は逃げるように玄関へと駆け込んだ。
ドアを閉めてから、私はしばらく動けなかった。
星のキーホルダーを、制服のポケットからそっと取り出す。
窓の外を見上げると、後夜祭の余韻を残すように、遠くの空がまだほんのり明るかった。