ホテルオーナーの執着愛~地味でぽっちゃりな私にだけ甘すぎます~
「すみません、大丈夫ですか?」

公営住宅の三階のベランダから焦り顔で声をかけてきたのは、見知らぬ中年女性だ。

干した敷布団を取り込もうとして落としてしまったのだろう。

「大丈夫です。このお布団、お届けしますね」

(砂がついちゃったけど、大丈夫かな?)

三つ折りにした敷布団を担いで三階まで階段を上る。

息を切らして届けると、申し訳なくなるくらい感謝された。

(そんなに大したことはしてないのに)

外に出て今度こそ買い物をしようとスーパーマーケットまで急ぐ。

あと少しで店の建物が見えてくるところで、気になる人を見つけた。

(観光客かな。道に迷っているのかも)

七十代に見える男性が大きな旅行鞄を道端に下ろし、きょろきょろと周囲を見回している。

「なにかお困りですか?」

「ああ、すみません。この辺りに湖畔荘という宿はありませんか?」

その名の通りの宿泊施設はないが、似た名前なら温泉旅館が建ち並ぶエリアにある。

「湖畔楼温泉のことですか?」

「そうです、そうです」

「ここから南に二キロほど歩いた温泉旅館街にありますよ。少し遠いので、タクシーを呼びましょうか?」

鈴花の足だと三十分弱かかる道のりで、旅行鞄を持ったお年寄りが歩くのは大変だろう。

そう思いタクシーを提案したのに、首を横に振られる。

「そのくらいなら歩けます。あっちですな? ご親切にどうも」

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