ホテルオーナーの執着愛~地味でぽっちゃりな私にだけ甘すぎます~
責任の一端が自分にある気がして焦り、ロビーの椅子に座らせてもらって男性に聞く。

「ご予約は電話でしたんですか?」

「そうです」

「旅館の名前をどこかに控えていたりは――」

「メモはしたんですけど、家に忘れてきてしまったようで」

男性は白髪の頭をごしごしとこすって困り顔をしている。

鈴花も困っているが、安心させようと笑みを作った。

「大丈夫です。この町の温泉旅館に片っ端から電話して聞いてみましょう。すぐにわかりますよ」

鈴花の携帯から電話すること六件目で、やっと男性の名前で予約を承っているという旅館を見つけた。

「『湖山荘』でした」

「ああ、そんな名前でしたか」

「わかってよかったです。でも……」

大小の温泉旅館が十五軒ほど集まったこのエリアに、湖山荘はない。

隣町との境界線辺りにポツンと一軒だけ立っているこじんまりとした山荘で、温泉をパイプで引いているのではなくタンクで湯を運んで利用しているタイプの旅館だ。

ここから行くとなると四キロほどの距離だろう。

車がないとさすがに無理だ。

「歩いていくと一時間以上かかりますし、上り坂です。バスもないです。タクシーを呼んだ方がいいと思います」

「そのくらいなら歩けますよ。若い頃は登山が趣味だったんだ」

(若い頃は歩けたとしても、今は……)

「あの、タクシー代は私が出しますので」

< 109 / 242 >

この作品をシェア

pagetop