ホテルオーナーの執着愛~地味でぽっちゃりな私にだけ甘すぎます~
旅行代が高くなるのを気にしているのかと思ったが、男性が静かに首を横に振った。

「実は脳出血で亡くなった妻が倒れたのがタクシーの中でしてな。どうもそれから乗る気になれんのです」

(そんな理由が……)

「そうとは知らず、失礼なことを言ってすみません」

「いえいえ、あなたはなにも謝る必要はありません。ご親切にありがとうございました。ここからはひとりで行けますので」

立ち上がった男性が旅行鞄に手を伸ばしたので、慌てて鈴花が持った。

「バッグは私が。山道ですし、迷うと大変ですのでご案内します。ゆっくり休み休み歩いて行きましょう」

困っている人を放り出すことなんて鈴花にはできない。

二時間くらいかけてゆっくり行くなら、お年寄りでも歩けるだろうと覚悟を決めて出発した。

それから二時間が経ったが、まだ湖山荘は見えてこない。

紅葉する山の中の一本道は一応舗装道路だが細く、アスファルトがボロボロになっている箇所もある。

(旅行鞄を持っての山道はきつい。ついてきてよかった)

なにも持っていなくても、男性は苦しそうな息をしている。

(どうしよう。暗くなってきた)

携帯を出して確認すると、時刻は十六時を過ぎている。

あと三十分ほどで日没だと思われ、気が急いた。

けれどもつらそうな男性に急いでとは言えない。

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