ホテルオーナーの執着愛~地味でぽっちゃりな私にだけ甘すぎます~
ホッとしてなにげなく壁掛け時計を見ると、出勤時間の十分前だ。

「急いで食べなくちゃ」

キッシュにサラダにローストビーフ、美味しそうな総菜をたくさん詰め込んだ弁当を残すなんて、鈴花のポリシーに反する。

急いで食べる隣では、海崎が長い足を組んで優雅にコーヒーを飲んでいる。

視線を感じて目を合わせると、焦げ茶色のきれいなアーモンドアイが弧を描き鼓動が跳ねた。



夜勤のフロントスタッフに引継ぎをして退勤したのは二十二時を少し過ぎた頃だ。

着替えのためにロッカールームを目指し、バッグヤードの廊下を歩く。

夜間は照明がひとつ置きに消されていて薄暗く、自分の足音が聞こえるほどに静かだ。

実は結構怖がりで、夜のホテルは心細い。

オバケの存在を全力で信じていた子供の頃なら、この廊下をひとりで歩けなかったことだろう。

(大人なんだから大丈夫。オバケはいない。だって二十七年生きてきて、一度も見たことがないもの)

自分に言い聞かせて着替えをすませ、裏玄関に向かう。

出退勤の管理はアプリで行っている。

出入口の横に貼られたQRコードを携帯で読み取っていると、後ろから肩をトンと叩かれて悲鳴を上げそうになった。

「あっ……海崎オーナーでしたか」

(心臓が止まるかと思った)

「おつかれさまです」

「おつかれさま。今、帰り?」

「はい」

< 45 / 242 >

この作品をシェア

pagetop