今夜、あなたを襲います 高嶺の花令嬢が既成事実を狙ったその顛末

「少し、お時間をいただけますか」
「でも、これからダンスを――」
「断ってください」
「え?」
「お願いします」

 有無を言わせぬ声音だった。クラウスはビクトリアの手首を掴む。

「おい、待てよ」

 先にビクトリアに声をかけてきた令息が、非難の声を上げる。クラウスはちらっと彼のほうを見た。

「悪いが、他を探せ」
「ふざけるな! おまえ何様……ひぃ、すみませんでした! どうぞ!」

 憤慨していた令息にクラウスが向き直る。すると、急に彼は怯えたようにへこへこと頭を下げだした。

「さあ、行きましょう」
「え? ええ」

 ビクトリアは戸惑いながらも、クラウスについてテラスへ出た。

「どうなさいました?」
「……さっき、あの男とダンスを踊ろうとしていましたね」
「ええ」

 クラウス様に邪魔されたせいで踊れませんでしたけど、という言葉はなんとか呑み込む。

「なぜです」
「なぜって……」

 ビクトリアは困った。一体、彼が何を聞きたいのか、その意図が掴めない。

「クラウス様に、もう近づかないと申し上げたでしょう?」

 彼の眉間の皺が深くなった。

「だからといって、他の男と踊る必要はないはずです」
「ありますわ。私も十九歳ですもの。結婚相手を探さなくては」
「結婚相手?」
「はい」

 クラウスは両手でビクトリアの肩を掴む。
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