今夜、あなたを襲います 高嶺の花令嬢が既成事実を狙ったその顛末
「誰と」
「まだ決めておりません」
「もしかして、先ほどの男が候補のひとりなのですか?」
「ええ、まあそうですね」
全く以て候補者がいないので、逆に言えば全ての男がビクトリアの夫となりえる存在だ。ビクトリアはこくりと頷く。
「だめです」
「……はい?」
「彼は女癖が悪い。ついこの間も、揉め事になっていた」
「そうですか。教えてくださりありがとうございます。……では、ごきげんよう」
あの男の男癖の悪さを知らせるために自分を呼び出したのかと思ったビクトリアは、お礼を言ってその場を離れようとする。しかし、クラウスがしっかりと掴んだ肩を離さない。
「あの……まだ何か?」
「今度は別の男と踊るのですか?」
「ええ、まあそうですね」
こっちは結婚相手を探しにここに来たのだ。踊らなかったら生まれるはずの恋も生まれない。
ビクトリアは頷いた。
「だめです」
「……はい?」
またもや、先ほどと同じ言葉を繰り返される。
ビクトリアは困惑してクラウスを見上げた。
「どうしてですか?」
「それは……」
クラウスが言葉に詰まった。
珍しい。
いつだって冷静沈着で、何を聞いても淀みなく答える男なのに。
「もしかして、他にも評判の悪い方がいらっしゃるのですか?」
「そうではありません」
「でしたら問題ありませんわ。今度は評判のいい方を探しますから」
「そういうことではなくて!」
珍しくクラウスが声を荒らげた。