今夜、あなたを襲います 高嶺の花令嬢が既成事実を狙ったその顛末
 その二週間後、ビクトリアは父の友人の公爵邸で開催された夜会に参加していた。
 無意識に濃紺の騎士服の男性を探してしまい、ビクトリアはハッとする。

(私ったら、ダメね)

 ビクトリアがこれまで足しげく社交界に顔を出していた理由。それは、愛しのクラウスの顔を見たいがためだった。
 もう彼のことは忘れようと決めたのに、沁みついた習慣はなかなか変えられない。

 今日は王族の参加予定かないので、当然護衛のクラウスもいない。

(暇だわ)

 いつもなら任務中のクラウスを見つめているだけであっという間に時間が過ぎたのに。まっすぐに彼だけを見つめ続けてきたビクトリアには、こんなときどう時間を潰せばいいのかわからなかった。

「ビクトリア嬢。一曲いかがですか?」

 ふいに、若い男性に声を掛けられた。

(この人は確か……)

 何度か夜会で見かけたことがある男性だった。淡い金髪に透き通るような青い瞳、やや中性的な甘いマスクの男性で、同じ年頃の貴族令嬢たちがカッコいいと噂していた気がする。

「えっと、私は──」

 ──ダンスの相手はクラウス様と決めているのよ。

 そこまで考えて、ビクトリアはまたハッとする。
 こんなことでは、いつまでたっても彼の呪縛から逃れられない。

「ええ、喜んで」

 ビクトリアはにっこりと微笑む。
 いつもの完璧な侯爵令嬢の仮面をかぶって。

(これでいいのよ。クラウス様にはご迷惑をかけたわ)

 ようやくこれで、気持ちに区切りをつけられる。
 そう思ったのに──。

「フォスター侯爵令嬢」

 低い声がした。
 聞き覚えのあるその声に、ビクトリアはびくっと肩を震わせる。

「……クラウス様」

 振り返ると、そこにはクラウスがいた。
 五週間ぶりに見る彼は、相変わらず神々しいまでにいい男だった。だが、なぜか眉間に皺が寄っていて非常に機嫌が悪そうに見える。
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