今夜、あなたを襲います 高嶺の花令嬢が既成事実を狙ったその顛末

 それなのに、ようやく諦めようと決意したらちょっかいを出してくるなんて、どういうつもりかと、怒りに任せて問い詰めたい感情に駆られる。
 ビクトリアは必死にその衝動を抑えた。

「クラウス様。私はあなた様の部下ではありませんわ」
「わかっています」
「でしたら、命令なさらないでください。私が誰と踊ろうと私の勝手です」
「それだけはだめです」
「だから、どうしてですの!」

 ビクトリアは声を荒らげる。

「あなた様には三年にもわたって迷惑をかけ続けたと申し訳なく思っています。だから、すっぱりと諦めようとしているんです。それなのに、どうして邪魔をなさるのですか!」
「私は迷惑などと思っていません」
「え? ……では、どうしていつも素っ気ない態度を取ったのですか。私、思い詰めてついにはあんな行動まで……今思い出しても恥ずかしくてどうにかなってしまいそうです」

 ビクトリアは両手で自分の顔を隠すように覆う。あの日のことを思い出した途端、羞恥で顔から火が出そうになる。

「ですから忘れてくださいませ。私も忘れます」
「無理です。忘れられるわけがないでしょう」

 いつになく強い口調だった。
 クラウスはビクトリアの両手を優しく掴み、そっと顔から離した。恐る恐る顔を上げると、クラウスとまっすぐに視線が絡み合った。

「あなたは、自分があのとき何をしていたのかわかっていない。忘れられるわけがないでしょう。私の上に跨って、あんなに真っ赤に染まった顔で見つめてきて……」
「わー、忘れてください!」

 すべて記憶から消し去りたいのに、なんてことを言うのだとビクトリアは動揺する。

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