今夜、あなたを襲います 高嶺の花令嬢が既成事実を狙ったその顛末
以来、三年間。
クラウスに会いたいという理由だけのために社交界に足しげく出入りし、いつ彼に見られても恥ずかしくないように完璧な淑女を演じ続けた。
他の男には目もくれず、ダンスに誘われても断り、山ほど届く求婚状も読まずに送り返した。
その結果、ビクトリアは『誰にも靡かない孤高の花』とも呼ばれるようになった。
クラウスに会いに行くために王太子が参加する夜会ばかりを狙って参加していたからか、陰では『王太子妃の座を狙っているのではないか』などと噂も立っているようだが、とんでもない。ビクトリアの心はクラウスだけのものだ。
そしてクラウスに会うたび、健気に好意を伝え続けている。
『クラウス様、今度一緒に観劇へ行きません?』
『申し訳ありません。勤務があります』
『では、お休みの日にお茶でも』
『休みの日は鍛錬をしたいので』
『クラウス様。生真面目なところも素敵ですね!』
『フォスター侯爵令嬢。勤務中ですのでもう失礼します』
暖簾に腕押しとはまさにこのことだ。
どんなに誘っても全く靡かない鉄壁の男、まさに難攻不落の堅物だ。
(でも、こんな堅物なところもクラウス様の魅力よね、あー、好き! 大好き!)
ビクトリアは心の中で悶絶する。愛する人が、素敵すぎて死ぬ。
(はあ。どうしたらクラウス様に好きになっていただけるの?)
ビクトリアの美貌に頬を染める男性は掃いて捨てるほどいる。だというのに、クラウスはほんの少しも靡く気配がない。
ビクトリアはもう十九歳。二十歳になったらさすがに婚約者を決めなければならない。悠長に彼の心が動く時間を待つことはできないのだ。
壁際に立ち、任務中のクラウスを視線で追う。そのとき、ふと大広間に集まる令嬢達がヒソヒソ声で盛り上がっているのが聞こえてきた。
「……で、朝まで情熱的な時間を過ごしたらしいわ」
「まあ、あの方が? 信じられないわ!」
「本当にね。でも、こうなってしまったからには正式に婚約するって仰っているみたいで」
どうやら、どこかの誰かがワンナイトラブから婚約に持ち込んだようだ。
「結局、男なんてベッドに押し倒してしまえばこっちのものよ」
令嬢たちはくすくすと笑い合う。
そのとき、ビクトリアは閃いた。
(そうだわ! これよ!)
こうなったら既成事実を作るしかない。
目指すは、体から始まる愛というやつだ。
◇ ◇ ◇