今夜、あなたを襲います 高嶺の花令嬢が既成事実を狙ったその顛末
「……お嬢様。今、なんと?」
「既成事実よ」
翌日。
ビクトリアは自室で、侍女のマリーに作戦を打ち明けた。
「クラウス様を押し倒すわ」
「おやめください」
マリーは真顔で止める。
「どうしてよ。私、本気なのよ?」
「それは知っておりますが、下手するとお嬢様のこれまで築いた完璧な淑女という評判だけでなく、侯爵令嬢としての幸せな未来が台無しになります」
「でも、もう普通の方法では無理なのよ!」
ビクトリアは悲痛な叫びをあげる。
そんなこと、ビクトリアだってわかっている。けれど、どうしても彼がいいのだ。彼以外の男に嫁ぐなんて、考えられない。ましてや好きでもない男と体を重ねる? 絶対にごめんだ。
「三年よ⁉ 三年も好意を伝えているのに、あの方の心は微動だにしないの!」
「ですが、なぜ押し倒すという結論になるのです」
「社交界で皆様が言っていたのよ。『男なんてベッドに押し倒してしまえばこっちのものよ』って」
「お嬢様、一体普段どういう方とお付き合いしているのですか!」
マリーは悲鳴を上げる。
しかし、ビクトリアの決意は固かった。伊達に三年も片思いしていないのだ。
そうして、一週間経ったある日のこと。思ったよりも早く好機は訪れた。
騎士団の幹部である父に折りいった話があると言って、勤務終了後にクラウスが侯爵家を訪問してきたのだ。
「しめたわ! チャンスよ!」
ビクトリアは歓喜の声を上げる。
タイミングよく、父は日中出かけたまま、まだ外出先から戻っていなかった。なんでも、途中の橋で馬車の脱輪事故があって足止めを食らっていると先ほど伝書鳩が来た。
こんな絶好のチャンス、逃すわけにはいかない。
ビクトリアはいそいそと身支度をすると、クラウスを出迎えた。案内したのは、賓客が泊まりにきたときに使用する部屋だ。
「こちらでです。どうぞ」
クラウスを案内したビクトリアは、目配せして使用人たちを下がらせた。
「フォスター侯爵令嬢。ここは応接室ではないようですが? 閣下とお話したら帰宅しますので──」
困惑したように、クラウスは部屋を見回す。
(――今よ)