今夜、あなたを襲います 高嶺の花令嬢が既成事実を狙ったその顛末
(もしかして、怒っていらっしゃる?)
クラウスがビクトリアに対してこんなに険しい顔を見せたのは初めてかもしれない。
じわりと目に涙が浮かぶ。
「だって……」
恥ずかしさと情けなさで、穴があったら入りたい。ここまでしてもやっぱり彼は靡かないのだから、やっていられない。
「だって、ではありません。もし相手が私でなければ、どうするつもりだったのです」
「クラウス様にしかしませんわ!」
「そういう問題ではありません」
「ではどういう問題ですの⁉」
ついに、耐えていた涙が零れ落ちた。
一度泣き出すと、堰を切ったようにぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「だって、どうすればいいかわからないんですもの! 三年間も好きなのに! どれだけ好意を伝えても、クラウス様は相手にしてくださらない!」
「…………」
クラウスは険しい表情のままじっとビクトリアを見つめてから、「はあ」と深い溜息を吐いた。
ビクトリアはその反応にショックを受けた。
(私、呆れられたの? 呆れられたわよね⁉)
自分はなんでこんなことをしているのだろうかと、とてつもなく惨めな気持ちになった。
結局、どんなに頑張っても彼が振り向いてくれることはないのと知らしめられ、胸を抉られるような気持ちだ。
「……私、失礼いたします」
ビクトリアは立ち上がると、クラウスの腹の上からするりと降りる。
「もうクラウス様には近づきません! さようなら、クラウス様。今までご迷惑をおかけしました」
そのまま逃げるように、部屋を出た。
「フォスター侯爵令嬢!」
クラウスが叫ぶのが聞こえたが、ビクトリアは振り返らなかった。