幸せのツボミ
7章【君じゃない】
涙を拭いながら、僕は思った。
僕が恋しいのは、彼女じゃない。
きっと、あの頃の自分なんだ。
誰かに甘えることができた自分。
辛いときに、一人じゃなかった自分。
誰かの優しさを、当たり前のように受け取っていた自分。
僕が戻りたいと思っているのは、彼女の隣じゃない。
あの頃の自分のところなのかもしれない。
そう考えると、不思議と少しだけ涙が止まった。
彼女には、今の幸せがある。
僕には、今の人生がある。
もう交わらない道もある。
それでいい。
彼女の幸せを願うことと、彼女を取り戻したいと思うことは、同じじゃない。
大切だった人が幸せになっていくのを、ただ嬉しいと思うことだってある。
僕はそれでいいと思った。
だから、もう彼女に何かを求めることはしない。
今日送れなかった言葉も、それでいい。
僕の中だけに残しておけばいい。
――可愛くなったね。
そう思った。
それだけで十分だった。
< 7 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop