WINNER
びっくりした……
何で斎藤さんがこんな所に?斎藤さんは黒いコートに黒いブーツ。まるで闇に溶け込んでいるように見えた。
「あ……会社の皆が心配してましたよ?無断欠勤してるって…それから…」横領疑惑もある、とは言えなかった。何とか言葉を呑みこむ。
「心配?私の?」
斎藤さんとちゃんと喋ったことがなかったけど、この人ってこんな風に声低かったっけ。こんな風に冷たかったっけ。
何故だか背中をぞわりと嫌な何かが撫でていき、私は息を呑んだ。
「え、ええ。皆…」
「誰と誰?」またも聞かれ
「それは……」と答えに詰まった。だって私経理部の人と親しくないし、斎藤さんの噂が回ってきても一々聞いていられる程暇な部署じゃないし。
「私の心配なんて誰もしないわよ、仁科さん、あなただってしてなかったでしょう?」
ま、まぁ確かに……
でもそんなこと言えないし。
「仁科、下がってろ」
九条が低く言って、私から手を離すと私の一歩前に出て手で私をかばうように腕を上げた。
「良いわよねぇ、美人はそうやって守ってもらえて」
ごくり、私の喉が鳴った。
言葉が出てこない。
斎藤さんが手に―――鈍い光を湛えたナイフを持っていたから。
斎藤さんがナイフを手にこちらに走って来る。
「仁科!逃げろ!」九条が叫んだ。
逃げろ―――って言われても。九条を残して?
そう考えたのか、或いは恐怖で足がすくんだのか、まるで地面に足を張り付けられたかのように私は一歩も動けずにいた。叫びだすことすらできない。
「死ねぇえええええええ!」
血走った目を開いて斎藤さんが突進してくる。
「陽妃!」九条が叫んだと同時、斎藤さんの持ったナイフの先の光が反射したのか九条の耳にぶら下がったピアスが一瞬強い光を放った。
バサッ!と何かが翻る大きな音がして、九条が脇腹を押さえる。斎藤さんは私たちの脇をすり抜けたところで、足を止めた。
「九条!」うそ!!刺されたの!!?
「いいから行けっ!」
「だけど!」
そんなやり取りをしている時、ターゲットの私を射止めてないことに気づいた斎藤さんは、くるりと振り返りまたもナイフを振りかざした。脇腹を押さえ片膝をついている九条の前に、私は両手をあげて立ちはだかった。
「来るなら来なさいよ!」
九条をこれ以上傷つけさせない。
そりゃサイテーの男だよ?口先だけで何が本音で何が嘘なのか全然分からなくて、超絶マイペースで、いっつも振り回されっぱなしだけど
でも
―――九条のこと好きだから。
「そこまでよ!」
まさにナイフが私に突っ込もうとしているとき、誰か女の人の声が聞こえてきて、カランっ!とナイフが乾いた音を立てて道路に落ちた。どうやら誰かが斎藤さんの手首を手なり足なりで攻撃したに違いない。暗くて良く分からないけど斎藤さんは、これまた背の高い男の人に取り押さえられ、腕を後ろで拘束されていた。
だ、誰―――…