結婚秒読みのアラサー女子、助けたカメに告られる。
「ナギサ」
 耳を撫でる甘い声で、ズルい男が言う。
「お願いします。僕にチャンスをください。まだ学生の身ですが、学位を取得したらすぐに、僕が日本へ来ます。それまでは、休みのたびに会いにきます。あなたに会えるなら二十時間のフライトなんて何でもない。だから……」
「待って、待って待って待って!」
 右手を掴まれたまま、私は自由な左手で目の前の白い顎を押し返した。
「あなたの言い分はわかった! だけど、よく考えて! あなたはイギリスの名門大に進んだんだよね? いわばあっちのエリートでしょう? おまけにそのルックスでしょう? 付き合う相手なんて自国でいくらでも見つかるでしょう!?」
 彼から通っている大学の名前を聞いて、私は耳を疑った。世界ランキングベストテンに入る、誰でも知っている超有名な名門大だったからだ。そこで最先端のコンピューター科学を研究しているのだと聞き、私は急に厚い壁を感じた。この人は、自分とは違う世界に住む人間だ。そう思った。
「ぶっちゃけ私は、ごくごく平凡な会社員だし。大学は出たけど自慢できる学歴ではないし。履歴書に書ける資格って言ったら、普通自動車免許と英検2級くらいだし……!」
 自分でも何を言っているのか謎だったけど、とにかく私は浮かぶままに思いを口にした。
「カメちゃんのご両親は大きな病院を経営していて、お祖父様は女王から勲章を授与されたような名士で! それに比べてうちは普通の中流家庭で財産もないし。勲章もらうような有名人もいないし。とにかく、私とカメちゃんとじゃ、いろいろ釣り合わないと思うんだっ!」
「そんなことを、誰が気にするんですか?」
「えっ……」
「うちの父も母も、僕が日本へ行くと聞いて、ナギサとうまくいくようにと応援してくれました。もし日本へ移住したいのなら、それが僕の幸せなら反対しないと」
「まさか……」
 呆然とする私を静かに見つめて、リアムは言った。
「逆にナギサのご両親はどうですか。相手が外国人だと交際を反対されますか?」
「いや、うちの親にそういう偏見はないけど……」
「なら何の問題もありませんね」
 そう言って、リアムは柔らかく笑った。
「あとは僕たちの気持ち次第だ」
「…………」
「僕は初めて会った時からナギサのことが好きです。ずっとあなたしか目に入りません」
「……こんな、五歳も年上の、オバサンなのに」
「うちの父方の祖父母は祖母のほうが八歳上ですが、今もとても仲が良いですよ。それに日本人女性はいつまでも若々しいし、見た目年齢ならいずれ僕が追い越すと思います」
「……超遠距離になるし」
「休みのたびに会いにきます。会えないときも、毎晩話す時間を作ります」
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