結婚秒読みのアラサー女子、助けたカメに告られる。
「で?」
「え?」
「相手にはなんて言うの?」
「それは……、他に好きな人ができたので別れてください、としか言いようがなくない?」
「ナギサ……」
私の隣に座るリアムが、嬉しそうな顔で私を見つめる。でも私は恥ずかしくて、その視線には気づかないふりをした。
「あー、まー、そーね。でも私は、それは悪手だと思うわ。それよりさ、こう言ってみてよ」
そこで愛美は、芝居がかった表情と口調で言った。
「別れてください。理由は、あなたが一番よくわかっているでしょう?」
「は? 何それ」
「いいから、そう言ってみてよ。うまくいけばすんなり別れられるからさ」
「……ちょっと、あんたいったい、何を知ってるの」
私の視線を正面から受け止めて、愛美はフフンと笑った。
「何も? ただ、私の勘がそう言えと告げているのよ」
「えぇ?」
冗談でなく本気で言っているらしい相手に、私は「本当にそんなことを言っていいの? よけいに相手を怒らせることにならない?」と訊いた。
「さぁ~。まぁ、危なくなったら助けてあげるからさ」
「え?」
「だって心配じゃない。ねぇ、カメ吉くん」
「はい、心配です」
おとなしく私たちの会話を聞いていたリアムが、そこで愛美に同意した。
「カップル間のDVはイギリスでも社会問題になっています。別れ話をされた男が彼女に暴力を振るって大怪我をさせたり……。女性が男性と揉める話をするときは、必ず第三者を交えるべきです」
「ほらねー。だから明日、あんたと彼氏の待ち合わせ場所に私たちも同行するから。会うのって何時から?」
「え……、二時だけど……」
「待ち合わせ場所は?」
「えーっと、指輪を見にいくお店の近くの駅前……」
「じゃあそれキャンセルね。もっとうちから近いところにしなよ。いや、彼氏の家の近くのほうがいいかな……」
「裕貴の家だと、S駅が一番近い……」
「あ、そこならアフタヌーンティーで有名なホテルがあったじゃん。よし、待ち合わせはそこにしよう! 彼氏と会うのは、アフタヌーンティーやってるのとは別のカフェね!」
「そんなの向こうが応じるかな……」
「とりあえずメールしてみてよ」
急かされるようにして私がメールを送ると、意外にも了承の返事が届いた。
「よっし、よっし。じゃあ二時から別れ話するとして、席の予約は二時半、三名でしておくわ」
「どういうこと? 別れ話をしたあとにお茶するの?」
「そだよ。あんたとカメちゃんのカップル成立のお祝いだから、私が奢るわ」
「ちょっと待って、いろいろおかしいでしょ! 今彼と別れ話をした直後にお祝いって……! そもそも、裕貴との話が長引いたらどうするのよ!」
「長引かないわよ。向こうがゴネる可能性もあるけど、そんなの放置していいから」
「いやダメでしょ! 有責者はこっちなんだから!」
「だーかーら、さっき言ったでしょ。向こうも有責の可能性があるんだって」
「そんなわけないじゃない。たしかに裕貴には独善的なところがあるけれど、それもべつに悪気があってのことじゃないし……」
必死な私の熱弁に、けれど愛美は冷めた顔で「ハーッ……」と大きなため息をついた。それで私は口を閉じた。
愛美はけっして常識外れな人間ではないし、荒唐無稽な発言をするタイプでもない。彼女がここまで言うってことは、きっと裕貴には私の知らない何かがあるんだろう。……たぶん。
黙った私を見て、愛美は独り言のように、「まぁ念のために、仕込みもしておくか」と言って、「スマホ貸して」と右手を差し出した。
「私のスマホで何すんの」
「変なことはしないって」
愛美は私からスマホを受け取ると、私がたまに使っている写真投稿用のSNSアプリを立ち上げた。
「ちょっとー。一カ月前の投稿から更新されてないじゃないのー」
「……最近忙しくて」
「彼氏にプロポーズされたのが三週間前でしょ。なんでそのことを書かないのよ」
「そんなの恥ずかしくて書けない」
愛美は「ハァ~……」とさっきより長いため息をついて、「まぁいいや。今となっては正解だわ」とつぶやいた。
「じゃあさ、もうこのアカウント消してもいい?」
「なんで? ……いや、まぁいいけど。どうせ月一くらいしか投稿しないし、見てるのも家族くらいだし」
「そうねー。でもここ半年は、家族以外の人間も見ているみたいよー。ほら、私とか倫生さんはコメント残してるけど、閲覧数とコメントやいいねの数が全然合わないもん」
「それは、たまたま覗いた人がいただけでしょ」
「その可能性もあるけどねー」
意味深な口調でつぶやき、愛美は許可も取らず勝手に新規の写真を上げた。
それは待ち合わせ場所であるカフェの画像で、「明日はここで彼と待ち合わせ♪ そろそろアノ話が出るかな?」というコメントも添えてあり、私は仰天して「何よこれっ!」と叫んだ。
「なんでこんな……、意味わかんないんだけど!?」
「たしかにねー。でも撒き餌は多いに越したことないしー」
またも意味不明の台詞を口にして、愛美は「まぁいいじゃないの」と笑った。
「明日には削除するアカウントだし、見るのは私と家族くらいなんでしょ?」
「それは……(そう)」
反論を諦めた私はガックリうなだれ、「もう、こんなの今すぐ削除したい……」とつぶやいた。
「え?」
「相手にはなんて言うの?」
「それは……、他に好きな人ができたので別れてください、としか言いようがなくない?」
「ナギサ……」
私の隣に座るリアムが、嬉しそうな顔で私を見つめる。でも私は恥ずかしくて、その視線には気づかないふりをした。
「あー、まー、そーね。でも私は、それは悪手だと思うわ。それよりさ、こう言ってみてよ」
そこで愛美は、芝居がかった表情と口調で言った。
「別れてください。理由は、あなたが一番よくわかっているでしょう?」
「は? 何それ」
「いいから、そう言ってみてよ。うまくいけばすんなり別れられるからさ」
「……ちょっと、あんたいったい、何を知ってるの」
私の視線を正面から受け止めて、愛美はフフンと笑った。
「何も? ただ、私の勘がそう言えと告げているのよ」
「えぇ?」
冗談でなく本気で言っているらしい相手に、私は「本当にそんなことを言っていいの? よけいに相手を怒らせることにならない?」と訊いた。
「さぁ~。まぁ、危なくなったら助けてあげるからさ」
「え?」
「だって心配じゃない。ねぇ、カメ吉くん」
「はい、心配です」
おとなしく私たちの会話を聞いていたリアムが、そこで愛美に同意した。
「カップル間のDVはイギリスでも社会問題になっています。別れ話をされた男が彼女に暴力を振るって大怪我をさせたり……。女性が男性と揉める話をするときは、必ず第三者を交えるべきです」
「ほらねー。だから明日、あんたと彼氏の待ち合わせ場所に私たちも同行するから。会うのって何時から?」
「え……、二時だけど……」
「待ち合わせ場所は?」
「えーっと、指輪を見にいくお店の近くの駅前……」
「じゃあそれキャンセルね。もっとうちから近いところにしなよ。いや、彼氏の家の近くのほうがいいかな……」
「裕貴の家だと、S駅が一番近い……」
「あ、そこならアフタヌーンティーで有名なホテルがあったじゃん。よし、待ち合わせはそこにしよう! 彼氏と会うのは、アフタヌーンティーやってるのとは別のカフェね!」
「そんなの向こうが応じるかな……」
「とりあえずメールしてみてよ」
急かされるようにして私がメールを送ると、意外にも了承の返事が届いた。
「よっし、よっし。じゃあ二時から別れ話するとして、席の予約は二時半、三名でしておくわ」
「どういうこと? 別れ話をしたあとにお茶するの?」
「そだよ。あんたとカメちゃんのカップル成立のお祝いだから、私が奢るわ」
「ちょっと待って、いろいろおかしいでしょ! 今彼と別れ話をした直後にお祝いって……! そもそも、裕貴との話が長引いたらどうするのよ!」
「長引かないわよ。向こうがゴネる可能性もあるけど、そんなの放置していいから」
「いやダメでしょ! 有責者はこっちなんだから!」
「だーかーら、さっき言ったでしょ。向こうも有責の可能性があるんだって」
「そんなわけないじゃない。たしかに裕貴には独善的なところがあるけれど、それもべつに悪気があってのことじゃないし……」
必死な私の熱弁に、けれど愛美は冷めた顔で「ハーッ……」と大きなため息をついた。それで私は口を閉じた。
愛美はけっして常識外れな人間ではないし、荒唐無稽な発言をするタイプでもない。彼女がここまで言うってことは、きっと裕貴には私の知らない何かがあるんだろう。……たぶん。
黙った私を見て、愛美は独り言のように、「まぁ念のために、仕込みもしておくか」と言って、「スマホ貸して」と右手を差し出した。
「私のスマホで何すんの」
「変なことはしないって」
愛美は私からスマホを受け取ると、私がたまに使っている写真投稿用のSNSアプリを立ち上げた。
「ちょっとー。一カ月前の投稿から更新されてないじゃないのー」
「……最近忙しくて」
「彼氏にプロポーズされたのが三週間前でしょ。なんでそのことを書かないのよ」
「そんなの恥ずかしくて書けない」
愛美は「ハァ~……」とさっきより長いため息をついて、「まぁいいや。今となっては正解だわ」とつぶやいた。
「じゃあさ、もうこのアカウント消してもいい?」
「なんで? ……いや、まぁいいけど。どうせ月一くらいしか投稿しないし、見てるのも家族くらいだし」
「そうねー。でもここ半年は、家族以外の人間も見ているみたいよー。ほら、私とか倫生さんはコメント残してるけど、閲覧数とコメントやいいねの数が全然合わないもん」
「それは、たまたま覗いた人がいただけでしょ」
「その可能性もあるけどねー」
意味深な口調でつぶやき、愛美は許可も取らず勝手に新規の写真を上げた。
それは待ち合わせ場所であるカフェの画像で、「明日はここで彼と待ち合わせ♪ そろそろアノ話が出るかな?」というコメントも添えてあり、私は仰天して「何よこれっ!」と叫んだ。
「なんでこんな……、意味わかんないんだけど!?」
「たしかにねー。でも撒き餌は多いに越したことないしー」
またも意味不明の台詞を口にして、愛美は「まぁいいじゃないの」と笑った。
「明日には削除するアカウントだし、見るのは私と家族くらいなんでしょ?」
「それは……(そう)」
反論を諦めた私はガックリうなだれ、「もう、こんなの今すぐ削除したい……」とつぶやいた。