結婚秒読みのアラサー女子、助けたカメに告られる。
運命の日曜日がきた。
駅近の四つ星ホテルは、見晴らしの良い上階にアフタヌーティーを開催しているティールームがあり、私が裕貴と待ち合わせたカフェは内庭を臨む一階にあった。
時間どおりに到着すると、裕貴はもう先に着いていた。全面ガラス張りの窓際席では、ホテルの美しく整えられた日本庭園を鑑賞できた。
指輪を見に行く予定だからか裕貴はスーツ姿だった。私も無難にワンピーススタイルにした。
「お待たせ」
向かいの椅子に座ると、裕貴はいつもの鷹揚な笑顔を見せ、「時間ぴったりだね」と言った。
コーヒーを注文し、私はドキドキしながら相手の様子を観察した。
こうして見る限り、裕貴はいつもと何も変わりなかった。いつもどおり、爽やかで人柄の良さそうな好青年だ。
「あの……」
「うん? ところで、どうして急に待ち合わせ場所を変えたの?」
「あ、それは……」
「俺としてはべつにいいけどさ。ここ、家から近いし。でも指輪を見に行くつもりだったんでしょう? ここからだと店までけっこう距離あるけど?」
「それは……」
「もしかして、あの店じゃなくて別の店に行くつもり? でもそれなら早目に教えてほしかったな」
「…………」
「それにしても、この店ってコーヒーも旨いし雰囲気いいし、なかなかだね。またここで待ち合わせようよ。もうちょっとしたらきっと庭の紅葉が綺麗だよ」
そう言って裕貴は、カップを手に窓の外へ目をやった。
私は「ハーーーッ……」と大きく息をついた。
(……そうだ。この人のもう一つの欠点。〝人の話を聞かない〟)
よくこれで課長になれたものだと思うけれど、明るいし臆せず話すし、ノーと言わせない押しの強さもあって、そういうところが営業に向いているのだろう。それに、こんな人だけど上司受けは抜群に良いのだ。
でもきっと裏では、彼に苦労させられている人間がいるはずだ。今ならわかる。こんな自分中心に世界が回っている男が上司なんて、下に就いた者は大変に違いない。
「……裕貴」
「ん?」
「別れてください」
自分でも驚くほどすんなりと、私は目的の言葉を口にできた。
「ん? よく聞こえなかったんだけど……」
そのタイミングで私のコーヒーが運ばれてきた。
給仕の女性が離れてから、私はもう一度、相手の顔をまっすぐに見て言った。
「私と別れてください。理由はあなたが一番よくわかっているはずです」
「えっ……」
愛美に言われたとおりの台詞を伝えると、裕貴はこっちが驚くほど表情を一変させた。サァと顔色が変わり、動揺のあまり目が忙しなく左右に動いた。
「あ、あの、汀……」
「今日はそれをお伝えしたくて来たんです。話は以上です」
「えっ、あの、汀……」
こんなにうろたえる彼を見たのは初めてで、鈍い私もさすがにこれは何か理由があるんだな、と察した。
駅近の四つ星ホテルは、見晴らしの良い上階にアフタヌーティーを開催しているティールームがあり、私が裕貴と待ち合わせたカフェは内庭を臨む一階にあった。
時間どおりに到着すると、裕貴はもう先に着いていた。全面ガラス張りの窓際席では、ホテルの美しく整えられた日本庭園を鑑賞できた。
指輪を見に行く予定だからか裕貴はスーツ姿だった。私も無難にワンピーススタイルにした。
「お待たせ」
向かいの椅子に座ると、裕貴はいつもの鷹揚な笑顔を見せ、「時間ぴったりだね」と言った。
コーヒーを注文し、私はドキドキしながら相手の様子を観察した。
こうして見る限り、裕貴はいつもと何も変わりなかった。いつもどおり、爽やかで人柄の良さそうな好青年だ。
「あの……」
「うん? ところで、どうして急に待ち合わせ場所を変えたの?」
「あ、それは……」
「俺としてはべつにいいけどさ。ここ、家から近いし。でも指輪を見に行くつもりだったんでしょう? ここからだと店までけっこう距離あるけど?」
「それは……」
「もしかして、あの店じゃなくて別の店に行くつもり? でもそれなら早目に教えてほしかったな」
「…………」
「それにしても、この店ってコーヒーも旨いし雰囲気いいし、なかなかだね。またここで待ち合わせようよ。もうちょっとしたらきっと庭の紅葉が綺麗だよ」
そう言って裕貴は、カップを手に窓の外へ目をやった。
私は「ハーーーッ……」と大きく息をついた。
(……そうだ。この人のもう一つの欠点。〝人の話を聞かない〟)
よくこれで課長になれたものだと思うけれど、明るいし臆せず話すし、ノーと言わせない押しの強さもあって、そういうところが営業に向いているのだろう。それに、こんな人だけど上司受けは抜群に良いのだ。
でもきっと裏では、彼に苦労させられている人間がいるはずだ。今ならわかる。こんな自分中心に世界が回っている男が上司なんて、下に就いた者は大変に違いない。
「……裕貴」
「ん?」
「別れてください」
自分でも驚くほどすんなりと、私は目的の言葉を口にできた。
「ん? よく聞こえなかったんだけど……」
そのタイミングで私のコーヒーが運ばれてきた。
給仕の女性が離れてから、私はもう一度、相手の顔をまっすぐに見て言った。
「私と別れてください。理由はあなたが一番よくわかっているはずです」
「えっ……」
愛美に言われたとおりの台詞を伝えると、裕貴はこっちが驚くほど表情を一変させた。サァと顔色が変わり、動揺のあまり目が忙しなく左右に動いた。
「あ、あの、汀……」
「今日はそれをお伝えしたくて来たんです。話は以上です」
「えっ、あの、汀……」
こんなにうろたえる彼を見たのは初めてで、鈍い私もさすがにこれは何か理由があるんだな、と察した。