結婚秒読みのアラサー女子、助けたカメに告られる。
昨日の夜と違って、今夜、私たちの間を阻むものは何もなかった。
両想いの二十二歳と二十七歳の男女が、夜、一つの部屋にいてすることなんて決まっている。
ただ私の予想に反して、夜は意外と短かった。
五年分の想いをぶつけ合うように、私たちは夢中で互いを求め合い、気がつくと室内に明るい光が差し込んでいた。時計を見ると朝の六時近くて、私たちはびっくりして、それで慌てて眠ることにした。
次に目を覚ますと、日は西に傾いて、時間を確認すると夕方の五時だった。慌ててシャワーを浴びて、デリバリーで簡単な夕食を済ませて、また昨日の続きをした。
今度は早目に寝たけれど、次に目を覚ましたらとっくに昼は過ぎていた。
「うそでしょ……」
遅い昼食を済ませて帰宅した私は、スマホの画面を見て呆然とつぶやいた。
「もう四時だよ……。えっ、明日から仕事……? 私、四連休だったはずなんだけど……。時間が光速で過ぎていくんですけど?」
隣でリアムがクスクス笑い、「時間が早く過ぎるのはいいことです」と言った。
「それだけ、僕といる時間が楽しいということでしょう?」
「うん、メッチャ楽しい……」
互いの体に腕を回し、ベッドを背もたれに私は彼とひっついて座った。こうして互いの体温を感じるだけで、彼の匂いに包まれるだけで、不思議なほどに心が凪いで、私は多幸感に包まれた。
(……すごい。本当に好きな人と両想いになるって、こんなに幸せなんだ。世界が一変するって、こういうことを言うんだ……)
けれどこの幸せな時間も、あと十五時間の命だ。
「あーっ、明日会社に行きたくないよーーーっ」
広い胸にもたれながら、私はそう愚痴った。
「そんなに今の職場が辛いんですか?」
「そうじゃなくてー。裕貴とは別れちゃったから~、その理由を詮索されるのが嫌なの~」
そう、私が裕貴と別れられなかった理由の一つ。同僚のみならず、彼の上司にも「結婚式では俺が仲人を務めるから」なんて軽口を叩かれるレベルで、社内公認のカップルだったのだ。
「もし裕貴と別れたことを知られたら、またいろいろ言われるんだろうなぁ……」
「言われるのは辛いですか?」
「辛いっていうか、憂鬱かな。私ってほら、リアルの人間関係は薄く浅くがモットーだからさ。噂のネタにされるのも苦手なのよ」
「そんなに会社が辛いなら、辞めたらいいじゃないですか」
「えっ……」
驚く私にリアムは、「会社を辞めて、イギリスに来ればいい」と驚く台詞を言った。
「昔、言っていたじゃないですか。イギリスに語学留学したかった、と。いっそ大学院で学びなおしたらどうですか。ロンドンの大学なら僕の家から通えるし、学費は奨学金制度を使うか、なんなら僕が出します」
「何言ってるの? だいいち、あなたもまだ学生でしょう?」
動揺を抑えながら、私は努めて平静な口調で言った。
「ご両親に学費を出してもらっている立場で、私の留学費用までなんて……」
「親には頼っていません」
めずらしく私の話をさえぎって、リアムが言った。
「大学の費用は自分で稼ぎました」
「え?」
思いがけない言葉に、私は目をしばたいた。
「学費を、稼いだの? 自分で?」
「はい。高校生のときに、日本語学習のためのアプリを作ったんです。それがある会社の目に留まり、他言語対応を可能にするプログラムと一緒に売りました。それがけっこうな額になったので学費に充てました。大学在学中にもいくつかアプリを作って、それも売りました。あ、僕の口座の残高を見せましょうか。そのほうが早いですね」
「えっ、ちょ……」
両想いの二十二歳と二十七歳の男女が、夜、一つの部屋にいてすることなんて決まっている。
ただ私の予想に反して、夜は意外と短かった。
五年分の想いをぶつけ合うように、私たちは夢中で互いを求め合い、気がつくと室内に明るい光が差し込んでいた。時計を見ると朝の六時近くて、私たちはびっくりして、それで慌てて眠ることにした。
次に目を覚ますと、日は西に傾いて、時間を確認すると夕方の五時だった。慌ててシャワーを浴びて、デリバリーで簡単な夕食を済ませて、また昨日の続きをした。
今度は早目に寝たけれど、次に目を覚ましたらとっくに昼は過ぎていた。
「うそでしょ……」
遅い昼食を済ませて帰宅した私は、スマホの画面を見て呆然とつぶやいた。
「もう四時だよ……。えっ、明日から仕事……? 私、四連休だったはずなんだけど……。時間が光速で過ぎていくんですけど?」
隣でリアムがクスクス笑い、「時間が早く過ぎるのはいいことです」と言った。
「それだけ、僕といる時間が楽しいということでしょう?」
「うん、メッチャ楽しい……」
互いの体に腕を回し、ベッドを背もたれに私は彼とひっついて座った。こうして互いの体温を感じるだけで、彼の匂いに包まれるだけで、不思議なほどに心が凪いで、私は多幸感に包まれた。
(……すごい。本当に好きな人と両想いになるって、こんなに幸せなんだ。世界が一変するって、こういうことを言うんだ……)
けれどこの幸せな時間も、あと十五時間の命だ。
「あーっ、明日会社に行きたくないよーーーっ」
広い胸にもたれながら、私はそう愚痴った。
「そんなに今の職場が辛いんですか?」
「そうじゃなくてー。裕貴とは別れちゃったから~、その理由を詮索されるのが嫌なの~」
そう、私が裕貴と別れられなかった理由の一つ。同僚のみならず、彼の上司にも「結婚式では俺が仲人を務めるから」なんて軽口を叩かれるレベルで、社内公認のカップルだったのだ。
「もし裕貴と別れたことを知られたら、またいろいろ言われるんだろうなぁ……」
「言われるのは辛いですか?」
「辛いっていうか、憂鬱かな。私ってほら、リアルの人間関係は薄く浅くがモットーだからさ。噂のネタにされるのも苦手なのよ」
「そんなに会社が辛いなら、辞めたらいいじゃないですか」
「えっ……」
驚く私にリアムは、「会社を辞めて、イギリスに来ればいい」と驚く台詞を言った。
「昔、言っていたじゃないですか。イギリスに語学留学したかった、と。いっそ大学院で学びなおしたらどうですか。ロンドンの大学なら僕の家から通えるし、学費は奨学金制度を使うか、なんなら僕が出します」
「何言ってるの? だいいち、あなたもまだ学生でしょう?」
動揺を抑えながら、私は努めて平静な口調で言った。
「ご両親に学費を出してもらっている立場で、私の留学費用までなんて……」
「親には頼っていません」
めずらしく私の話をさえぎって、リアムが言った。
「大学の費用は自分で稼ぎました」
「え?」
思いがけない言葉に、私は目をしばたいた。
「学費を、稼いだの? 自分で?」
「はい。高校生のときに、日本語学習のためのアプリを作ったんです。それがある会社の目に留まり、他言語対応を可能にするプログラムと一緒に売りました。それがけっこうな額になったので学費に充てました。大学在学中にもいくつかアプリを作って、それも売りました。あ、僕の口座の残高を見せましょうか。そのほうが早いですね」
「えっ、ちょ……」