結婚秒読みのアラサー女子、助けたカメに告られる。
「あの~……、オセロピザです~」
 廊下の端から控えめに声をかけてきた配達のお兄さんに、私は「あ、はい、注文した幸松(こうまつ)です!」と手を挙げて合図した。
 そしてあいかわらず深刻な顔をした美青年に向かい、「すいません。ちょっと避けてもらえます?」と言った。彼はしぶしぶ、数歩横に移動した。
 私は受け取った商品を愛美に預け、ピザ代を現金で払った。不審顔の配達員が帰っていって、廊下には2.5次元の外国人だけが残った。
「ええと……」
 私は申し訳なさを表情に滲ませながら、「やっぱり人違いだと思いますよ。私はあなたのことを知りませんので……」と言った。
 美貌の白人青年は「うっ……」と呻(うめ)いて、右手で口元を覆った。
「そんな……ひどい……」
(えーーー……)
「イギリスから、二十時間かけて会いにきたのに……」
「そんなことを言われても……」
「みっちゃんに励まされて、勇気を振り絞って飛行機に乗って……、ドキドキしながら会いにきたのに……。僕はこの五年、一日たりともナギサのことを忘れた日なんてないのに……。なのにナギサは、僕のことをすっかり忘れているなんてっ……!」
 その直後、秋の木立を思わせる綺麗な目から、透明の雫がハラハラとこぼれ落ちた。
「うーーーわーーー……」
 ガチ泣きする美貌の青年を見て、私は成すすべもなく脱力した。
(これって私のせい? 私が悪いのか?)
「ちょい、ちょい」
 ここまで成り行きを見守っていた愛美が、私のパーカーの袖を引っ張り言った。
「とりあえずさ、ここで立ち話もナンだし。部屋に上がってもらえば?」
「はぁ?」
 友人のありえない発言に、すっかり酔いも覚めた私は真顔で叫んだ。
「なんで! 何のために!」
「いやぁ、だって、この人があんたの知り合いなのは間違いないっしょ。だって表札もないこの部屋に迷わず辿り着いたし、名前も知ってるし、何よりメチャクチャ顔がいい。こんなイケメンが悪いヤツのわけがない」
 私は「おーい、本気で言ってんの?」と呆れ顔で聞いた。
「何度も言うけど、私はこの人のことを全然知らないんだって」
「いやいや。彼、みっちゃんって言ってなかった? それって倫生(みちお)さんのことじゃない?」
「…………」
「あと私さぁ、なーんかこの人を知ってる気がするんだよね」
「そりゃ、クライヴに激似だからでしょ」
「見た目じゃなくて、声とか話し方がさー。それに、さっきカメって聞こえたけど、昔あんたの友だちにカメって名前の子がいなかった?」
「……カメではなく、カメ吉です」
 小さな声で彼が言った。
「カメ吉というのは、昔飼っていたギリシャリクガメの名前です」
 グスグスと鼻をすすりながら、涙目の彼は「僕はカメ吉という名前で、ナギサと同じコミュニティにいました」と言った。
「えっ……!!!!」
 今日一番の衝撃を受け、私はコスプレ青年の顔を見た。
「まさか、あなた、あのカメちゃんなの!?」
「だから最初に言ったじゃないですか。助けていただいたカメです、って」
 青年はそこで、「思い出してくれましたか?」と赤い鼻で微笑んだ。
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