結婚秒読みのアラサー女子、助けたカメに告られる。
「…………」
短い回想を終えた私は、目の前でかしこまって座る〝元友人〟を不信の目で見つめた。
「……あなたがあのカメ吉くんなのはわかりました。でも五年前、あなたのほうから私と縁を切りましたよね。いったい今さら何の用ですか?」
「それは……」
カメ吉青年は、神妙な顔でうつむき、答えた。
「今会いに行かないと、後悔すると思ったからです……」
「会いにって、私にですか」
「はい」
「何のために?」
「……みっちゃんに、これがラストチャンスだと言われたので」
また兄の名が出て、私は目の前の綺麗な顔をジロリと睨んだ。
「みっちゃんって、兄の倫生のことですよね。もしかして兄とはずっと繋がっていたんですか」
「僕じゃなくて叔父が……」
「あー、そういえばそうでした。で、いったい何がチャンスなんですか」
まるで刑事の尋問みたいだなと思いながらも、私は過去の怒りをぶつけるように追及の手を緩めなかった。そして彼のほうも、たどたどしくはあったけれどちゃんと答えてくれた。
そんな私たちを横目に、愛美は届いたピザをクラフトビールと一緒にせっせと消費していた。いったいその細い体のどこに入れているんだと思うほど、元読モの友人はよく食べる。
私は傍観者に徹する友人を見て、「私の分も残しておいてよ」と釘を刺した。何がそんなに面白いのか、愛美はニヤニヤ笑いながら「りょうかーい」と言った。
「……で、さっきの話の続きですけど。兄はあなたに何を話したんですか」
「ええと、だから……、みっちゃんに、告白するなら今が最後のチャンスだと言われて……」
「え?」
軽く混乱しつつ、私は「ちょっと待って」と片手を上げた。
「告白って、誰が、誰に?」
「僕が、ナギサに」
「何を告白するんですか」
「それは……」
カメ吉くんは顔を赤らめ、そのまま黙り込んでしまった。
顔をうつむかせて口を噤む姿は、すこしだけ昔の面影があって、私は何だか切なくなった。
(目の前にいるのはあのカメちゃんだけど、私の知っているカメちゃんはもういない……)
「フーッ、お腹いっぱい!」
シンとした空気をぶった切って、愛美が声を上げた。見れば、Mサイズピザは綺麗に半分ずつ残されていた。
「じゃあ私は帰るわ!」
そのまま勢いよく立ち上がった友人を見て、私は「うそでしょ!」と叫んだ。
「今、この状況で!? 帰るの!?」
「えー、だって私、あきらか邪魔じゃん」
「邪魔じゃないよ! 必要だよ!」
「いやいや、邪魔だよ。馬に蹴られるレベルだよ」
意味不明の台詞を吐いて、愛美はうつむいたままのカメ吉くんを見た。
「あんたはとりあえず、彼の話を聞いてあげなよ。二十時間かけて会いにきてくれたんだし」
「愛美ぃ……」
急いでピザを食べていたのはこのためか、とようやく理解して、私は途方に暮れた顔をした。
「でも密室に男女が二人きりっていうのは、さすがに……」
「相手はカメ吉くんでしょー? へーきへーき。あ、私への報告は明日でいいよ」
「報告いるんだ」
「もっちろん。あ、今日はもう寝るから、電話は出られないよ」
「うう……、薄情者……」
愛美はプッと吹いて、「何言ってんの、いい大人が」と言った。
「じゃあねー、おやすみぃ。あ、カメ吉くんも、またねー」
「ど、どうも……」
(くっそう、愛美め……。この状況を完全に面白がってるな……)
さっさと玄関に向かう友人を私が恨めしい顔で見送ると、ようやく顔を上げたカメ吉青年が、「あ、あの、ご自宅まで送らなくて良いんですか?」と私に言った。
「もう夜遅いですし……。女性の一人歩きは危険では……」
イギリス紳士らしい気遣いに、私は「ああ」と気の抜けた顔で答えた。
「心配いらないよ。だって彼女の家、うちの二件隣だから」
「え……」
「だから。私の部屋が三〇五号室で、愛美の部屋は三〇三号室なの」
すでに閉まったドアを見て、私は肩を竦めた。
短い回想を終えた私は、目の前でかしこまって座る〝元友人〟を不信の目で見つめた。
「……あなたがあのカメ吉くんなのはわかりました。でも五年前、あなたのほうから私と縁を切りましたよね。いったい今さら何の用ですか?」
「それは……」
カメ吉青年は、神妙な顔でうつむき、答えた。
「今会いに行かないと、後悔すると思ったからです……」
「会いにって、私にですか」
「はい」
「何のために?」
「……みっちゃんに、これがラストチャンスだと言われたので」
また兄の名が出て、私は目の前の綺麗な顔をジロリと睨んだ。
「みっちゃんって、兄の倫生のことですよね。もしかして兄とはずっと繋がっていたんですか」
「僕じゃなくて叔父が……」
「あー、そういえばそうでした。で、いったい何がチャンスなんですか」
まるで刑事の尋問みたいだなと思いながらも、私は過去の怒りをぶつけるように追及の手を緩めなかった。そして彼のほうも、たどたどしくはあったけれどちゃんと答えてくれた。
そんな私たちを横目に、愛美は届いたピザをクラフトビールと一緒にせっせと消費していた。いったいその細い体のどこに入れているんだと思うほど、元読モの友人はよく食べる。
私は傍観者に徹する友人を見て、「私の分も残しておいてよ」と釘を刺した。何がそんなに面白いのか、愛美はニヤニヤ笑いながら「りょうかーい」と言った。
「……で、さっきの話の続きですけど。兄はあなたに何を話したんですか」
「ええと、だから……、みっちゃんに、告白するなら今が最後のチャンスだと言われて……」
「え?」
軽く混乱しつつ、私は「ちょっと待って」と片手を上げた。
「告白って、誰が、誰に?」
「僕が、ナギサに」
「何を告白するんですか」
「それは……」
カメ吉くんは顔を赤らめ、そのまま黙り込んでしまった。
顔をうつむかせて口を噤む姿は、すこしだけ昔の面影があって、私は何だか切なくなった。
(目の前にいるのはあのカメちゃんだけど、私の知っているカメちゃんはもういない……)
「フーッ、お腹いっぱい!」
シンとした空気をぶった切って、愛美が声を上げた。見れば、Mサイズピザは綺麗に半分ずつ残されていた。
「じゃあ私は帰るわ!」
そのまま勢いよく立ち上がった友人を見て、私は「うそでしょ!」と叫んだ。
「今、この状況で!? 帰るの!?」
「えー、だって私、あきらか邪魔じゃん」
「邪魔じゃないよ! 必要だよ!」
「いやいや、邪魔だよ。馬に蹴られるレベルだよ」
意味不明の台詞を吐いて、愛美はうつむいたままのカメ吉くんを見た。
「あんたはとりあえず、彼の話を聞いてあげなよ。二十時間かけて会いにきてくれたんだし」
「愛美ぃ……」
急いでピザを食べていたのはこのためか、とようやく理解して、私は途方に暮れた顔をした。
「でも密室に男女が二人きりっていうのは、さすがに……」
「相手はカメ吉くんでしょー? へーきへーき。あ、私への報告は明日でいいよ」
「報告いるんだ」
「もっちろん。あ、今日はもう寝るから、電話は出られないよ」
「うう……、薄情者……」
愛美はプッと吹いて、「何言ってんの、いい大人が」と言った。
「じゃあねー、おやすみぃ。あ、カメ吉くんも、またねー」
「ど、どうも……」
(くっそう、愛美め……。この状況を完全に面白がってるな……)
さっさと玄関に向かう友人を私が恨めしい顔で見送ると、ようやく顔を上げたカメ吉青年が、「あ、あの、ご自宅まで送らなくて良いんですか?」と私に言った。
「もう夜遅いですし……。女性の一人歩きは危険では……」
イギリス紳士らしい気遣いに、私は「ああ」と気の抜けた顔で答えた。
「心配いらないよ。だって彼女の家、うちの二件隣だから」
「え……」
「だから。私の部屋が三〇五号室で、愛美の部屋は三〇三号室なの」
すでに閉まったドアを見て、私は肩を竦めた。