君の世界から抜け出せない
彼がこちらを意識すらしてないと気づいた次の瞬間から絶望と孤独が私を飲み込む。



今日もそんな感情を両手いっぱいに抱えたまま、彼とは反対方向の電車に乗り込む。

学校の最寄駅に着く直前の電車内で私はいつも
思いっきり笑顔を作る。
こうすると私が抱えてる孤独が隠れていつもの
"可愛い百合ちゃん"になれる。


教室に着くと、あまり人はいない。

始業30分前だというのにガラガラな教室で私はいつも通り、勉強を始める。

勉強に集中すると全てを忘れることができる。


「おはよ!ゆーり!」


気づけば始業を知らせるチャイムが鳴っていた。

「おはよう〜佳奈」

私がこの高校に入学した時に佳奈が私をお昼ご飯に誘ってくれて以来、佳奈はいつも私と一緒に過ごしてくれている。

「まーた勉強してたの?やっぱ偉いなぁ百合」
「そんなことないよ。だって私たち今日から受験生でしょ。頑張らなきゃ。」

「もー!思い出させないでよ!キラキラの女子高生生活ラストの華の高3のスタートって言ってよね。」
「佳奈はやっぱりワードセンスあるよね。」

「百合に言われるとめっちゃ嬉しい!今年もよろしくね!」
「こちらこそよろしくね佳奈」

そんな会話をしていると教室には去年から同じ担任が入ってくる。


私の高校は受験に専念するために高2から高3のクラス替えはない。

私の高校は県内トップクラスの進学校だけど、私のクラスは学年のチャラい人が集まったクラスだから受験生らしい雰囲気は全くない。



「昨日彼氏といたよね!!彼氏とはどこまでいった?流石にキスはしてるよね」
「当たり前でしょ。それにさ、聞いて!聞いて!
昨日の帰りに彼氏の家に来ないか誘われたの〜」


「こないだ塾でイケメンがめっちゃ私のこと見ててさぁ〜。好かれたかも!」
「あつい!いいなぁ」



私のクラスでは恋愛の会話がほとんど。

周りの恋愛が進展していくのを耳にするたび、私は1人なんだと感じる。

いくら恋したって、いくら会いたいと思ったって、彼とは会えない現実が私が1人だという現実が押し寄せてくるだけ。



1人でぐだぐだ考えていると、始業のホームルームを終えて私の席にやってきた佳奈が私に言う。


「ねぇやっぱり律さ、百合のこと好きなんじゃない?」
「そんなことないよ。佳奈の勘違いじゃない?」

私を好きになるわけない。

少なくとも私が別の人を好きになることはないし、律くんもそんな不毛な恋はしない方がいい。
誰にも好きな人がいるなんて話したことないけど。

「いーや、そんなわけない!律のやつ、高2の最初からいつも百合のこと見てるし。それに!百合はもっと恋した方がいい!可愛くて綺麗な百合が勿体なさすぎる〜」

佳奈の言葉がナイフのように私に刺さる。
けど、

「佳奈の方が可愛いよ〜!私、優しくて面白い佳奈のこと大好き!」
「可愛いやつめ!百合には敵わないなぁ」



私は今日も''恋愛なんて知らない純粋無垢な百合ちゃん''という仮面をかぶる。



彼との恋が叶って欲しいと思うのに、その恋を隠すのはいつも私。


翌日。
始業式のために全校生徒が体育館に集合する。

「始業式なんてリモートでいいのにね!
イケメンでも探して過ごそうかなぁ」
「佳奈はいつもイケメン探してるよね。」

どうやら佳奈は結構な面食いらしい。

「当たり前でしょ!あー!!ねぇねぇ百合!」
「どうしたの?」

急にテンションがハイになった佳奈に驚いていると、綺麗な瞳と目が合った。

瞬間、一気に心臓を掴まれたみたいになる。

「やっぱり、律は百合のこと見てるよねぇ」

私は男子と目が合うなんて初めてですぐに目を逸らす。

何も言えずにいる私に佳奈は話続ける。

「でもすごいよねー。律、イケメンな上にミステリアスな雰囲気だからか女子がもはや近づけずに遠くから見てる。ほら、律の周りだけ少し空間がある。」
「ほんとだ。ホームルーム教室の階すら違う私たちでも知ってるくらいだもんね。人気者だね。」
「百合が初めて律を褒めた!すごい!律に知らせたいくらいだよ!まぁ話したことないけど」

佳奈の話に笑っていると,体育館のステージに校長先生が登る。

話、長くないといいなぁ。

「おはようございます。皆さん進級おめでとう。高校1年生のみなさんは進学おめでとう。」

私の隣に立つ佳奈が小さく私の肩をたたく。

「百合、なんか校長の頭去年より薄くなってない?寂しいヘアになってるよ」
「聞こえたらどうするの」

そういいながら必死に笑いを堪える。
始業式中は下向いとこう。
校長先生を見ただけで笑ってしまいそう。

「3年生はいよいよ受験学年ですね。志望校を早めに決めて来週の模試に向けて励んでください」

私は今の恋に縛られた自分から少しでも抜け出したくて高い偏差値の大学を第一志望に設定した。

幼馴染の彼も頭がいいけど流石の彼でもいけなさそうなくらいの偏差値の大学。

彼と一緒になりたいと思うのに、彼に対抗するなんて馬鹿みたい。

この4年間で最初はキラキラだった私の彼への恋心は今では執着と恋愛の間の感情へと変化した。

初めは彼に振り向いてもらおうと彼にアピールした。

けど、家の近所でたまたま彼のお母さんとすれ違った時に睨まれて以来アピールはしなくなった。

もちろん、私の気にしすぎかもしれないけど私はちゃんと傷ついてしまった。


校長の話が終わり表彰も終わると、生徒がガヤガヤと一斉にホームルーム教室へ戻る。

百合と話しながら楽しく教室へ戻っていると、急にある生徒が私の肩にぶつかる。

私にぶつかった男子生徒は私を振り返ることなく走っていく。


こんなこともあったな。


中学生の頃、まだ私が幼馴染の彼と気まずくなる前にもおんなじようなことがあった。

その時の私の隣には彼がいて。

「百合、大丈夫?どっか痛くない?」

私の顔を見て優しく問いかけてくれた。私の肩を寄せながら。

「平気だよ、冬馬」
「ならいいんだけど。マジでムカつくな。あいつ誰だよ。百合にぶつかるなんて。」

あの時の私は私を心配する冬馬に幸せを感じながら笑えていた。



「冬馬がいてくれたから大丈夫だよ」




ねぇ冬馬。
今も私を思い出すことはある?





「おい、勝手にぶつかっときながらその態度はないだろ。」


私が思い出に浸っている間に私にぶつかった生徒を律くんが咎めていた。

「かっこいい〜!さすが律だね!!」

隣の佳奈はすっかり盛り上がっている。

私は驚きで何も言えない。

「ぶつかったんなら謝るべきなんじゃない?」

律くんの低い声が廊下に響く。

「ご、ごめんて。ぶつかってすまなかった。」

ミステリアスな律くんが怒りを乗せた声を出したからだろうか、さっきまで律くんに黄色い声でも話しかけていた女子生徒も少し怖がっている。

「大丈夫だよ。律くん、ありがとう。」

私がお礼を言うと律くんは目を少しだけ丸くして去っていってしまった。

「律〜!!今日一緒にパフェ食べ行こう!」

その背中を焦って追いかけていく女子生徒。



私も律くんを追いかけたいと少し思った気がした。



冬馬以外好きになりたくないのに。






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