チョコより甘い光〜バレンタインチョコの行方〜

side美月

美月が理久の家に戻った時、理久はまだ帰っていなかった。

及川くんだけでなく、理久にも小さな嘘がばれている。

どうしてこんなことになってしまったのか。

バチが当たったとしか思えない。

可愛くラッピングしたバレンタインチョコは、もちろん及川に渡す予定などない。

今は、美月の部屋に置いてある。

たったあんな小さな箱ひとつが、こんなにややこしいことになるなんて。

やはりバレンタインデーは、つくづく厄介なイベントだ。


美月はキッチンへ行き、グラスに水を注いだ。

その時、玄関の解錠音が聞こえた。

理久が帰ってきた。


どんな表情をしているのだろう。


胸の奥が、少し変な音を立て始める。

「お帰りなさい」

美月が声をかけると、理久の美しい顔がこちらを向いた。

「ただいま」

表情は、特に普段と変わらなかった。

ただ、手に持っている大きめの袋が、すぐに美月の目に入る。

「これ、もしかしてチョコですか?」

「そうだよ」

美月が想像していたよりも、はるかに多いチョコレートが入っているようだった。

「気になる?」

「……そうですね。見てもいいですか?」

「お好きにどうぞ」

理久は上着を脱ぎ、ソファに座った。

チョコレートには、あまり興味がなさそうに見える。

美月が袋の中をのぞくと、有名なチョコレートの箱が次々と現れた。

「これ、あの有名なショコラティエの……。あ、これはデパートの催事場で行列ができていたところの……あ、これも」


先日、老舗デパートの催事場に足を運んだ時、美月はあまりにもたくさんの人たちが売り場でチョコレートを買っている光景を見た。

あの人たちが買ったチョコレートは、こうやって誰かの手に渡るのか。

美月は一人で納得するように、箱を眺めていった。

「美月は、ずいぶんチョコに詳しいんだね」

「いえ、全然詳しくないですよ」

「……そんなふうには見えないけど?」

理久が少し疑うような視線を向けてくる。

けれど美月は、先日初めてバレンタインの催事場という場所に足を運んだ程度だ。

本当に詳しいわけではない。

むしろ、こんな有名な高級チョコレートをたくさんもらっている理久に、自分が手作りしたチョコを渡して、本当に喜んでもらえるのか。

今になって、不安が膨らんでくる。

「欲しいなら、あげるよ」

その余裕のある言い方を、嫌味として受け取るべきか。

ありがたく受け取るべきか。

美月は少し返事に困った。


「こんなにたくさんの好意を、簡単に人に渡していいんですか?」

「……妬いてるの?」

「妬いてません」

思わず、少し強めの口調になった。
< 10 / 13 >

この作品をシェア

pagetop