チョコより甘い光〜バレンタインチョコの行方〜

side 及川

なんで。

なんで俺が、こんな目に遭うんだ。

及川はエレベーターに乗り込み、10階のボタンを押した。

そもそも外科の患者も入院していない10A病棟に、なぜ自分が行かなければならないのか。

心の中ではそう思う。

けれど、藤崎先生に業務命令とまで言われ、10Aの看護師たちにも行くよう促されてしまった以上、まずは誤解を解きに行くしかない。

10A病棟のナースステーションに着くと、まだ残っている看護師たちと、桐谷先生、内科レジデントが話をしていた。

桐谷は理久の幼馴染で、同じ病院に勤める内科医だ。

「お疲れ様です」

及川が声をかけると、その場にいたスタッフが一斉にこちらを向いた。

「あれ? 及川。どうした?」

声をかけてきたのは桐谷先生だった。

どうした、と聞かれても、及川自身にも来た理由がわからない。

返事に困っていると、何かを察したように看護師たちが反応した。

「バレンタインですね?」

その言葉に、桐谷先生がすぐさま食いついた。

「バレンタイン? 患者じゃなくて?」

「今、うちに外科の患者はいませんよ」

「あ、そうなの? じゃあ、バレンタインって何?」

桐谷先生は、明らかに興味津々な顔をしている。

及川の胸に、ますます嫌な予感が広がった。

「綾瀬さん、昨日、及川先生のためにバレンタインチョコ作ってましたもんね」

嬉しそうにそう話す後輩看護師の声に、真っ先に反応したのは綾瀬だった。

綾瀬が、一瞬だけ目を丸くする。

「え? 綾瀬、及川にチョコ渡すの?」

桐谷先生が面白がるように綾瀬へ聞いた。

綾瀬はバツの悪そうな表情を浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。

「及川先生、ちょっといいですか?」

「え、あ、ああ……うん」

綾瀬はそのままナースステーションを出ていく。

及川も、ついていくしかない。

背後では、後輩たちが興味津々に綾瀬の方を見ている。

桐谷先生は、明らかに笑いをこらえた顔で及川を見ていた。

及川は目を泳がせながら、綾瀬の背中を追った。
< 5 / 13 >

この作品をシェア

pagetop