【番外編】元・訳あり男装剣士の初めての舞踏会
「そういえば」
一人の令嬢が、ふと思い出したように声を潜めた。
「先日の夜会で、リディア様がアルフォード卿と庭へ出ていかれたって、本当なの?」
「ああ、それ」
「私も聞きましたわ」
「でも、お二人はまだ婚約されていないでしょう?」
「だから噂になっているのよ」
「まあ……!」
また、楽しげな声が上がった。
「それで?」
「それで、って?」
「庭へ出ただけではないのでしょう?」
「そこまでは知りませんわよ」
「でも、戻っていらした時、リディア様のお顔が真っ赤だったそうですわ」
「まあ!」
「では、やっぱり――」
「ちょっと。決めつけるのはよくありませんわ」
そう言いながら。
誰一人として、話題を変えようとはしない。
「…………」
セレスティアは、静かに紅茶を飲んだ。
先ほどから。
皆、実に楽しそうである。
そして。
誰と誰が親しく、どこで二人きりになり、その後どうなったらしいのか。
他人の色恋沙汰について、実によく知っている。
――一体、どこからそんな情報を得てくるのだろう。
セレスティアには、そちらの方が不思議だった。
「でも、口づけくらいなら、婚約していなくてもする方はいらっしゃるでしょう?」
「まあ。随分大胆なことを仰るのね」
「だって、好きな方と二人きりになったら――」
「だからって、必ずするわけではないでしょう?」
「では、あなたは?」
「――っ。どうして私の話になるの!」
「その反応は怪しいですわ」
「怪しいですね」
「エレノア様まで!」
「だって、気になるもの」
くすくすと笑いながら、エレノアも菓子をひとつ摘まむ。
どうやら。
こういう話は、令嬢たちにとって格好の話題らしい。
「でもね」
それまで楽しそうに皆の話を聞いていた一人が、意味ありげに微笑んだ。
「口づけだって、一つではありませんのよ?」
「……え?」
誰かが聞き返す。
そして。
セレスティアの視線も。
すっと、その令嬢へ向いた。
「一つではない?」
「ええ」
「どういうこと?」
「口づけなんて、唇と唇が触れるものでしょう?」
「それだけではありませんわ」
「まあ」
「……それは、どういう意味ですか?」
気づけば。
セレスティアも尋ねていた。
「セレスティア様?」
エレノアがこちらを見る。
「はい?」
一人の令嬢が、ふと思い出したように声を潜めた。
「先日の夜会で、リディア様がアルフォード卿と庭へ出ていかれたって、本当なの?」
「ああ、それ」
「私も聞きましたわ」
「でも、お二人はまだ婚約されていないでしょう?」
「だから噂になっているのよ」
「まあ……!」
また、楽しげな声が上がった。
「それで?」
「それで、って?」
「庭へ出ただけではないのでしょう?」
「そこまでは知りませんわよ」
「でも、戻っていらした時、リディア様のお顔が真っ赤だったそうですわ」
「まあ!」
「では、やっぱり――」
「ちょっと。決めつけるのはよくありませんわ」
そう言いながら。
誰一人として、話題を変えようとはしない。
「…………」
セレスティアは、静かに紅茶を飲んだ。
先ほどから。
皆、実に楽しそうである。
そして。
誰と誰が親しく、どこで二人きりになり、その後どうなったらしいのか。
他人の色恋沙汰について、実によく知っている。
――一体、どこからそんな情報を得てくるのだろう。
セレスティアには、そちらの方が不思議だった。
「でも、口づけくらいなら、婚約していなくてもする方はいらっしゃるでしょう?」
「まあ。随分大胆なことを仰るのね」
「だって、好きな方と二人きりになったら――」
「だからって、必ずするわけではないでしょう?」
「では、あなたは?」
「――っ。どうして私の話になるの!」
「その反応は怪しいですわ」
「怪しいですね」
「エレノア様まで!」
「だって、気になるもの」
くすくすと笑いながら、エレノアも菓子をひとつ摘まむ。
どうやら。
こういう話は、令嬢たちにとって格好の話題らしい。
「でもね」
それまで楽しそうに皆の話を聞いていた一人が、意味ありげに微笑んだ。
「口づけだって、一つではありませんのよ?」
「……え?」
誰かが聞き返す。
そして。
セレスティアの視線も。
すっと、その令嬢へ向いた。
「一つではない?」
「ええ」
「どういうこと?」
「口づけなんて、唇と唇が触れるものでしょう?」
「それだけではありませんわ」
「まあ」
「……それは、どういう意味ですか?」
気づけば。
セレスティアも尋ねていた。
「セレスティア様?」
エレノアがこちらを見る。
「はい?」