【番外編】元・訳あり男装剣士の初めての舞踏会

第二話「気になるお年頃」

 アーデン侯爵家の王都邸へ戻ったのは、夕刻を少し過ぎた頃だった。

 玄関ホールへ足を踏み入れると、侍女がセレスティアの外套を受け取る。

 「思ったより長くなってしまいましたね」

 隣でエレノアが苦笑する。

 「はい。でも、とても楽しかったです」

 セレスティアが満足そうに答えると、エレノアはなぜか複雑そうな顔をした。
 
 「――セレスティア」

 聞きなれた声に、振り返る。

 廊下の向こうから、ベイルが歩いてくるところだった。

 「今、戻ったのか?」

 「はい。先ほど」

 仕事を終えたばかりなのだろう。

 まだ騎士服のままだった。

 「そうか。茶会はどうだった?」

 「はい。とても勉強になりました」

 「勉強?」

 ベイルが眉を寄せる。

 隣で、エレノアが小さく咳払いをした。

 「セレスティア様」

 「そこは、楽しかった、でよろしいのでは?」

 「もちろん、楽しかったです」

 「なら、よかった」

 ベイルはそれ以上気にすることもなく、わずかに表情を緩めた。

 ――その顔を見て。

 茶会での会話が蘇る。

 『セレスティア様がアーデン家でお暮らしになるようになってから、ベイル様が随分変わられたって』

 『以前より、ずいぶん早く帰ってくるようになっただけです』

 セレスティアは、じっとベイルを見た。

 「……?」

 「どうした?」

 「ベイル様は、いつもこれくらいの時間にお戻りになるのですか?」

 「いつも?」

 「はい」

 突然の問いに、ベイルがわずかに首を傾げる。

 「……いや。以前は、もう少し遅かったな」

 「以前は」

 「ああ」

 「では、最近は早くお戻りになるのですね」

 「まあ……そうだな」

 「…………」

 セレスティアは、まじまじとベイルを見つめた。

 本当だった。

 エレノアの話を疑っていたわけではない。

 けれど、本人から聞くと、妙に気になった。

 「どうしてですか?」

 「何が?」

 「以前より、早くお戻りになるようになった理由です」

 「…………」

 ベイルは、僅かに考えるような間を置いた。

 「……早く帰れるなら、帰ろうと思うようになっただけだ」

 「以前は、そう思わなかったのですか?」

 「…………」

 再び、沈黙が落ちた。

 今度は、ベイルの方がセレスティアをじっと見つめる。

 「……質問が多くないか?」

 「すみません。少し気になってしまったので……」

 「何が?」

 「今日のお茶会で、エレノアさ――」

 「セレスティア様!」

 突然エレノアが声を上げた。

 セレスティアは驚いて振り返る。

 「今日は、思ったより遅くなってしまいましたし、そろそろお部屋へ戻りましょう?」

 エレノアはにこやかな笑みを浮かべたまま、セレスティアの腕を取った。

 「えっ⁉……で、ですが、まだ――」

 「さあ、参りましょう」

 「エレノア様?」

 そのまま、半ば強引に屋敷の奥へと促される。

 あとに残されたベイルは。

 「…………」

 遠ざかっていく二人の背中を黙って見送ると、ぽつりと呟いた。

 「……何なんだ?」

 

 
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