【番外編】元・訳あり男装剣士の初めての舞踏会
「……?」
セレスティアは、胸元へ手を当てた。
おかしい。
あの時、何をされようとしていたのかは、もう分かった。
分からなかったから、あんなふうに意識してしまったのだと思っていたのに。
「……どうした?」
ベイルの声に、セレスティアは顔を上げた。
目が合う。
どくん。
「…………」
やはり、速い。
「……まだ、どきどきします」
「…………」
ベイルが黙った。
「おかしいですね」
「……何が?」
「ベイルにあの時、何をされようとしていたのかもう分かったのに」
セレスティアは、自分の胸元へ視線を落とした。
「まだ、ベイルを見ると、胸の鼓動が速くなるんです」
「…………」
返事がない。
不思議に思って顔を上げると、ベイルはじっとセレスティアを見ていた。
「……?」
「それは、俺を見る時だけなのか?」
「え?」
セレスティアは考える。
「……たぶん」
「他の人を見ても、そうはならない?」
「…そう、ですね」
「…………」
ベイルは、何かを考えるように黙り込んだ。
セレスティアは首を傾げる。
「……ベイル?」
「そうか」
短く答えると、ベイルはもう一度セレスティアを見た。
その表情がなぜか、少しだけ緩んでいる。
「なんだか……嬉しそうですね」
「……まあな」
「…………」
セレスティアは、よくわからず首を傾げた。
ベイルはそんな様子をしばらく見つめていたが。
「……分からないのか?」
問われても、やはり思い当たらない。
セレスティアが首を傾げたままでいると。
ベイルの目が、ゆっくりと細められた。
その口元には、隠しきれない笑みが滲んでいる。
「好きな女が、俺を見て胸が高鳴ると言ってるんだぞ」
セレスティアは、ぱちりと瞬いた。
「嬉しくないわけないだろ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
けれど。
――好きな女。
その言葉が、妙にはっきりと耳に残った。
どくん。
また、胸が鳴る。
「あっ……」
「……また」
「ふっ」
ベイルの口から、小さく笑いが漏れた。
今度こそ、はっきりと笑っている。
それも、明らかに嬉しそうに。
「…………」
セレスティアは、そんなベイルを不思議そうに見つめた。
「……やはり、おかしいでしょうか?」
「何が?」
「私が、こんな風になるのは」
「いや」
ベイルは、まだ笑みを残したまま答えた。
「別に、おかしくない」
「……そうなのですね」
「ああ」
――それなら。
「ベイルも、そうなることがありますか?」
「ある」
今度は、迷いのない答えだった。
「そうなのですか」
「ああ」
セレスティアは、少し考えた。
胸が高鳴ること自体は、おかしなことではない。
しかも、自分だけではないらしい。
そう分かると、今度は別のことが気になった。
「では、ベイルはどんな時にどきどきするのですか?」
「……知りたいのか?」
べイルは少し考えるように、セレスティアを見つめた。
「そうだな……」
少し間を置いて。
「例えば――好きな相手と踊る時、とか」
「好きな相手と……踊る」
セレスティアは、その言葉をそのまま繰り返した。
好きな相手。
ベイルにとっての好きな、相手……。
そう考えて――。
すぐに、先ほどの言葉を思い出した。
『好きな女が、俺を見て胸が高鳴ると言ってるんだぞ』
「…………」
あれは、私のことだ。
ということは。
ベイルが言う、好きな相手というのも――。
「……私?」
思わず、声に出ていた。
ベイルの口元が、また少し緩む。
「そうだな」
「では……」
セレスティアは考える。
ベイルは、好きな相手と踊る時に胸が高鳴る。
その相手は、私。
ということは。
「ベイルも、私と踊ると……どきどきするのですか?」
「そういうことになるな」
その口元には、まだ笑みが残っている。
「そうなのですね……」
そこまでは、分かった。
けれど。
セレスティアは、ふと眉を寄せた。
「――あれ? 」
何かが、引っかかった。
ベイルは、私と踊ると胸が高鳴る。
なぜなら、私のことが好きだから。
それなら――。
私は?
先ほど、ベイルと踊った。
そして――胸が高鳴った。
「…………」
「どうした?」
ベイルの声が、どこか楽しそうに聞こえる。
セレスティアは顔を上げた。
目の前には、先ほどから変わらず自分を見つめているベイルがいる。
「……ベイル」
「なんだ?」
セレスティアは、胸元へ手を当てた。
おかしい。
あの時、何をされようとしていたのかは、もう分かった。
分からなかったから、あんなふうに意識してしまったのだと思っていたのに。
「……どうした?」
ベイルの声に、セレスティアは顔を上げた。
目が合う。
どくん。
「…………」
やはり、速い。
「……まだ、どきどきします」
「…………」
ベイルが黙った。
「おかしいですね」
「……何が?」
「ベイルにあの時、何をされようとしていたのかもう分かったのに」
セレスティアは、自分の胸元へ視線を落とした。
「まだ、ベイルを見ると、胸の鼓動が速くなるんです」
「…………」
返事がない。
不思議に思って顔を上げると、ベイルはじっとセレスティアを見ていた。
「……?」
「それは、俺を見る時だけなのか?」
「え?」
セレスティアは考える。
「……たぶん」
「他の人を見ても、そうはならない?」
「…そう、ですね」
「…………」
ベイルは、何かを考えるように黙り込んだ。
セレスティアは首を傾げる。
「……ベイル?」
「そうか」
短く答えると、ベイルはもう一度セレスティアを見た。
その表情がなぜか、少しだけ緩んでいる。
「なんだか……嬉しそうですね」
「……まあな」
「…………」
セレスティアは、よくわからず首を傾げた。
ベイルはそんな様子をしばらく見つめていたが。
「……分からないのか?」
問われても、やはり思い当たらない。
セレスティアが首を傾げたままでいると。
ベイルの目が、ゆっくりと細められた。
その口元には、隠しきれない笑みが滲んでいる。
「好きな女が、俺を見て胸が高鳴ると言ってるんだぞ」
セレスティアは、ぱちりと瞬いた。
「嬉しくないわけないだろ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
けれど。
――好きな女。
その言葉が、妙にはっきりと耳に残った。
どくん。
また、胸が鳴る。
「あっ……」
「……また」
「ふっ」
ベイルの口から、小さく笑いが漏れた。
今度こそ、はっきりと笑っている。
それも、明らかに嬉しそうに。
「…………」
セレスティアは、そんなベイルを不思議そうに見つめた。
「……やはり、おかしいでしょうか?」
「何が?」
「私が、こんな風になるのは」
「いや」
ベイルは、まだ笑みを残したまま答えた。
「別に、おかしくない」
「……そうなのですね」
「ああ」
――それなら。
「ベイルも、そうなることがありますか?」
「ある」
今度は、迷いのない答えだった。
「そうなのですか」
「ああ」
セレスティアは、少し考えた。
胸が高鳴ること自体は、おかしなことではない。
しかも、自分だけではないらしい。
そう分かると、今度は別のことが気になった。
「では、ベイルはどんな時にどきどきするのですか?」
「……知りたいのか?」
べイルは少し考えるように、セレスティアを見つめた。
「そうだな……」
少し間を置いて。
「例えば――好きな相手と踊る時、とか」
「好きな相手と……踊る」
セレスティアは、その言葉をそのまま繰り返した。
好きな相手。
ベイルにとっての好きな、相手……。
そう考えて――。
すぐに、先ほどの言葉を思い出した。
『好きな女が、俺を見て胸が高鳴ると言ってるんだぞ』
「…………」
あれは、私のことだ。
ということは。
ベイルが言う、好きな相手というのも――。
「……私?」
思わず、声に出ていた。
ベイルの口元が、また少し緩む。
「そうだな」
「では……」
セレスティアは考える。
ベイルは、好きな相手と踊る時に胸が高鳴る。
その相手は、私。
ということは。
「ベイルも、私と踊ると……どきどきするのですか?」
「そういうことになるな」
その口元には、まだ笑みが残っている。
「そうなのですね……」
そこまでは、分かった。
けれど。
セレスティアは、ふと眉を寄せた。
「――あれ? 」
何かが、引っかかった。
ベイルは、私と踊ると胸が高鳴る。
なぜなら、私のことが好きだから。
それなら――。
私は?
先ほど、ベイルと踊った。
そして――胸が高鳴った。
「…………」
「どうした?」
ベイルの声が、どこか楽しそうに聞こえる。
セレスティアは顔を上げた。
目の前には、先ほどから変わらず自分を見つめているベイルがいる。
「……ベイル」
「なんだ?」