独占愛は夜より深く。
答えられないまま黙っていると、碧がふっと笑った。

「困らせた?」

「……少し」

「ごめん。でも気になるんだよね」

碧の指先が、そっと私の髪に触れた。
耳の横に落ちていた髪を、やさしくすくうだけの軽い仕草。

なのに次の瞬間。

「碧」

低く、冷えた声が倉庫に落ちた。

びくっと肩が揺れる。
顔を上げると、いつの間にか要がすぐそこに立っていた。

さっきまで恒一たちと話していたはずなのに。
まるで一瞬で距離を詰めてきたみたいに、気配が近い。

碧は髪に触れていた手をすっと離して、肩をすくめた。

「怖いなあ。ただ話してただけじゃん」

「触る必要はない」

「嫉妬?」

その一言で、空気が変わる。

恒一が少し離れた場所で、うわ、と小さくつぶやいたのが聞こえた。
伊織は止める気もないのか、静かに成り行きを見ている。

要は何も言わないまま、まっすぐ碧を見る。
その目の冷たさに、私のほうが息をのんだ。

でも碧は引かない。
むしろ面白がるみたいに笑う。

「そんなに警戒しなくても、取ったりしないよ」

「おまえならやりかねない」

「ひどいなあ。信用ない」

軽いやり取りのはずなのに、ぴりぴりとした緊張が消えない。
その中心にいる要が、ふいに私の手首を取った。

「こっち来い」

「えっ」

驚く間もなく、ぐいっと引かれて立ち上がる。
そのまま要の後ろへ引き寄せられた。

背中に当たる体温。
近すぎて、心臓がまたうるさくなる。

「要、ちょっと……」

「離れてろ」

短い命令口調。
でもそれが誰に向けたものなのか、すぐにわかった。

碧は両手を上げて降参するふりをした。

「はいはい。独占欲つよ」

その言葉に、要の眉がわずかに寄る。

「悪いか」

倉庫の空気が止まった気がした。

私は目を見開く。
碧ですら一瞬だけ黙った。

要は私の手首をつかんだまま、淡々と続ける。

「こいつに変な顔して近づくな。おまえでも容赦しない」

その声は低くて静かで、本気だった。
冗談も、牽制もない。
ただ真っ直ぐな独占。

碧は数秒だけ要を見つめてから、ふっと笑った。

「……了解。そこまで本気なら、さすがに邪魔しない」

そう言って立ち上がると、今度は私に向かってやわらかく笑う。

「ごめんね、紗菜ちゃん。総長、思った以上に余裕なかったみたい」

からかうような言い方なのに、不思議と嫌な感じはしない。
むしろ碧は、要の気持ちをわざと私に見せたかったのかもしれない。

そう思った瞬間、碧の目が一瞬だけ鋭くなった。
でもすぐにいつもの笑みに戻る。

「じゃ、俺は空気読んで消えるよ」

ひらっと手を振って離れていく背中を見送りながら、私はまだ要に手首をつかまれたままだと気づいた。

「……もういないよ」

小さく言うと、要は少しだけ沈黙したあと、ようやく手を離した。

けれど次の瞬間には、その指が私の顎に触れて、そっと顔を上げさせる。

「碧に何かされた?」

「髪、触られただけ」

そう答えると、要の目がわずかに細くなった。

「それが嫌なんだよ」

低く落ちた声が、胸の奥にまで響く。

「おまえに気安く触れていいのは、俺だけでいい」

熱が上がる。
顔が近い。
逃げたいのに、逃げられない。

「……そういう言い方、ずるい」

「ずるくてもいい」

要の親指が、私の頬をなぞった。

「誰にも渡したくない」

その言葉は、告白より重い。
甘いのに、どこか苦しくて。
でもいやじゃないと思ってしまう自分が、もうだめだった。
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