独占愛は夜より深く。
「持ってるな」

もうごまかせない。
私は小さくうなずいた。

「……鍵、なの。兄の机の裏に隠されてた」

恒一が眉をひそめる。
碧は壁際にいたまま、笑みを消した。
伊織だけが静かに続ける。

「その鍵に対応する保管場所があるはずです。お兄さんは何かを残そうとしていた可能性が高いです」

「何を……?」

「裏取引の記録か、名簿か、金の流れか」

伊織の言葉は冷静なのに、ひとつひとつが重い。
兄が命を落とした理由が、ただの事故なんかじゃないことを改めて突きつけてくる。

その瞬間、また外で大きな音がした。
今度はもっと近い。
金属がぶつかるような、嫌な音。

恒一が舌打ちする。

「早いな。もう来たか」

「碧」

要が名前を呼ぶと、碧はすぐに表情を切り替えた。

「裏口まわるよ。様子見て、必要なら散らす」

「伊織は場所を絞れ」

「もうほぼ見えています」

みんなが動き始める。
さっきまで甘く笑っていた碧も、軽口を叩いていた恒一も、まるで別人みたいだった。

これが月影。
この人たちの本当の顔。

そしてその中心で、要が私を見る。

「紗菜、鍵を出せ」

震える指でポケットから小さな銀色の鍵を取り出す。
要の手に渡した瞬間、その表情がほんの少しだけ険しくなった。

「この刻印……」

「知ってるの?」

「古い貸金庫の印だ。今は使われてないはずだが」

伊織がすぐ横から確認する。

「南地区の旧街区にある建物かもしれません。名目上は閉鎖済みですが、裏で使われている可能性があります」

南地区。
兄が最後に向かったとされる場所だ。

ぞくりと背筋が震えた。
真相が近づいている。
でもそれは、危険が近づいているということでもある。

「俺が行く」

要が即座に言った。

「は? 一人で?」
恒一が顔をしかめる。

「陽動ならなおさらだ。頭を押さえる」

「総長、さすがにそれは」
碧も珍しく軽くは言わない。

けれど要は、もう決めている目をしていた。
そのまま私のほうへ向き直る。

「紗菜はここにいろ」

「嫌」

自分でも驚くくらい、すぐに言葉が出た。

要の目がわずかに見開かれる。
でも私は止まれなかった。

「私の兄のことでしょ。私だけ何も知らないまま待つなんて、無理」

「危ない」

「わかってる。でも……もう逃げたくない」

声が震える。
怖い。
本当はすごく怖い。
でも、ここでまた守られているだけじゃだめだと思った。
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