独占愛は夜より深く。
「泣けないって言ってたけど」

髪をなでる指先がやさしい。

「今なら、泣いてもいい」

そのひと言で、堪えていたものが決壊した。

私は要の服をぎゅっとつかんだまま、小さく肩を震わせる。
大きな声では泣けなかった。
でも涙は止まらなかった。

兄のこと。
真実のこと。
要のこと。
全部が苦しくて、全部が大切で、どうしたらいいのかわからない。

そんな私を、要は何も言わずに抱きしめ続けた。
急かさない。
慰めの言葉を並べない。
ただそこにいて、逃がさないみたいに支えてくれる。

どれくらいそうしていたのかわからない。
少しだけ落ち着いて顔を上げると、要が親指で涙のあとをそっとぬぐった。

「ひどい顔」

「……誰のせい」

「俺のせいでもある」

否定しないところが、またずるい。
私は鼻をすすって、少しだけ要を睨む。

すると要が、ほんの少しだけ笑った。

「その顔、好きだ」

「今、全然かわいくないでしょ」

「かわいい」

即答だった。

顔がまた熱くなる。
泣いたあとでこんなふうに言われたら、もうどうしていいかわからない。

「要って、ほんとずるい」

「知ってる」

「自覚あるんだ」

「おまえ相手のときだけ」

さらっとそんなことを言うから、また心臓がうるさくなる。

要の指先が、今度は私の頬にかかる髪をそっとよけた。
その仕草ひとつにも、妙に大事にされているのが伝わってしまう。

「紗菜」

「……なに」

「今日はもう無理して強くいなくていい」

真っ直ぐな目。
逃げられないくらいやさしい目だった。

「俺の前では、ちゃんと弱ってろ」

その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
守るとか、離さないとか、そういう強い言葉もずるいけれど。
今みたいな静かなやさしさのほうが、もっと深く刺さる。
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