独占愛は夜より深く。
「……好きだ」

要のその声が、胸の奥に何度も響いていた。

どうしようもないくらい。
失いたくない。
守るだけじゃ足りない。

そんなふうにまっすぐ言われたのは、たぶん初めてだった。

私は要の腕の中で、しばらく動けなかった。
うれしい。
でも、怖い。
信じたい。
でも、まだ痛い。

その全部が本当で、ひとつにも決められない。

「紗菜」

低い声で名前を呼ばれて、私はゆっくり顔を上げた。

要は何も急かさない。
返事を待つくせに、追い詰めない。
その静かなやさしさが、今はいちばんずるかった。

「……すぐに、うまく言えない」

やっと出た言葉に、要は小さくうなずく。

「知ってる」

「要のこと、まだ許しきれてないし」

「うん」

「でも、嫌いにもなれない」

その瞬間、要の目がほんの少しだけ揺れた。

私はそのまま、勇気を出して続ける。

「それに……要が他の人にやさしくしてたら、たぶん嫌」

言った瞬間、顔が熱くなる。
こんなの、ほとんど答えみたいなものだ。

要がじっと私を見る。
いつもの余裕が少し消えて、代わりに熱っぽい何かが滲む。

「紗菜」

「まだあるの」

「……何」

「要が触ると、落ち着く」

胸がどくんと鳴る。
もう止まれなかった。

「離れたくないって、ちょっと思う」

言い終わる頃には、恥ずかしさで逃げたくなっていた。
でも次の瞬間、要の手が頬に触れる。

やさしい。
ひどく大事にするみたいな触れ方だった。

「それ、十分すぎる」

掠れた声。
普段の要からは想像できないくらい、感情がにじんでいた。

「ちゃんと伝わった」

そう言って要は、額をそっと私に寄せる。
近い。
でももう、さっきまでみたいに怖くない。

私は少しだけ迷ってから、自分から要の服を握った。
そして、ほんの少しだけ引き寄せる。

要の呼吸が止まる気配がした。

「……これで、わかる?」

小さく聞くと、要が苦しそうに笑う。

「わかる」

「ほんとに?」

「わかりすぎて危ない」

そんな言い方に、思わず少し笑ってしまう。

すると要の目がやわらいだ。
そのまま、私の髪を指で梳く。

「もう一回、していい」

何をとは言わない。
でもわかってしまう。

私は小さくうなずいた。

今度のキスは、前より少しだけ甘かった。
確かめるみたいで、それでいて離れがたい。
やさしいのに、好きがちゃんと伝わってくる。

唇が離れたあとも、要はすぐには距離を取らなかった。

「返事、急がせないって言ったけど」

「うん」

「今のは、かなり期待する」

真面目に言うから、また胸が熱くなる。

「少しくらいは、期待していいよ」

そう返すと、要の目が静かに細くなる。

「それ、かなり煽ってる」

「知らない」

「知ってて言ってるだろ」

低く笑う声が、前よりずっとやわらかい。

そのとき、部屋の向こうで紙を置く音がした。
現実がまた近づいてくる。
真相も、黒幕も、まだ終わっていない。

それでも今だけは、少しだけ確かだった。

私はもう、要を完全には突き放せない。
そして要も、もう隠れない。

ふたりの間に残っていた距離は、今夜、静かに縮まった。
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